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いま、最高の一本に出会える

Tim HeckerからDisclosureまで 小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜の傑作/佳作

リアルサウンド

18/10/21(日) 16:00

 2カ月のご無沙汰でした。いつも通りエレクトロニックな新譜からご紹介します。

 今月は傑作/佳作が多くとても全部は紹介しきれませんが、まず真っ先に挙げておきたいのがカナダの電子音楽家ティム・ヘッカー(Tim Hecker)が、日本の雅楽の音楽家と共演した新作『Konoyo』<Kranky>。タイトル通り、あの世とこの世の境目の濃密でサイケデリックな夢の中にたゆたっているような強烈な音響アートです。先日東京・渋谷でスタートした本作のツアーは、ここ数年味わったことのないような凄まじい非日常体験でした。間違いなく今年度のベストライブであり、ベストアルバムのひとつだと思います。ストリーミング配信でも聴けますが、できれば2枚組のバイナルで、できうる限りの大音量で聴くことをお勧めします。

tim hecker ‘this life’

tim hecker ‘keyed out’

 デンマークのバンド、Lust For Youthのハネス・ノーヴィドの別ユニットKYOの通算4枚目『All The Same Dream』<Posh Isolation>は、ニューヨーク出身のシンガー、ジェウルーをフィーチャーしてのアルバムです。Lust For Youthは凡庸なシンセポップで特筆するものはありませんが、これはちょっと凄い。IDM/エレクトロニカとエレクトロニックR&Bを縦断するようなダークでエクスペリメンタルなトラックに、ジェウルーの呟くようなスポークンボーカルが乗り、鮮烈かつディープなサウンドを作り出しています。サーペンウィズフィートやアントニー、フランク・オーシャンといった人たちにも似た狂おしくエモーショナルな世界は必聴です。

KYO w/ Jeuru – Take Me Home

 日本人DJ/プロデューサーのShunji Saitoによるソロプロジェクト、Fugenn & The White Elephantsの5年ぶり新作が『Elevated Petal』<PROGRESSIVE FOrM>。生音と電子音が優雅に、流麗に交錯する美しく雄大なエレクトロニカ。ときおりエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーに通じるようなブロークンビーツを織り込みながらも、叙情的でメランコリックでスケールの大きな展開を聞かせます。作り込みの緻密さと丁寧さは見事で、以前よりもエキセントリックな面が薄れ、よりシネマティックでドラマティックになって、聞きやすくなったと言えるでしょう。プログレファンにもゴシックサイケデリックな女性ボーカルファンにもお勧めです。

Fugenn & The White Elephants “Elevated Petal” from “Elevated Petal” PFCD82

 ベルリン出身のペーター・ケルステンことローレンス(Lawrence)の2年ぶりの8作目が『Illusion』<Dial>。相変わらず非常に繊細で洗練されたディープ〜テックハウスを展開。音数を絞ったミニマルなサウンドながら、ふくよかで広がりのある空間表現を実現しています。ベテランらしい手練れの職人芸に酔いたい1作。

LAWRENCE – TREASURE BOX

Lawrence – Dark Swirl [Dial]

 UKテクノの奇才パウエル(Powell)の新作『New Beta』<DIAGONAL>はvol.1とvol.2の2部作。いずれも限定バイナルのみでリリースされていたものが配信リリースされたものです。80年代ノイエ・ドイチェ・ヴェレを思わせるチープでジャンクでエクスペリメンタルでマッドな電子音が交差するレフトフィールド・テクノ最前線です。MVもクルってますね!

Powell – Wormhole

 DJミックスものを2つご紹介しましょう。UKエレクトロニカ〜ポストダブステップのデュオ、マウント・キンビー(Mount Kimbie)が、名物シリーズ『DJ-Kicks』<!K7 Records>に登場、新旧テクノの楽曲を自在にミックス。緻密に練り上げたエレクトロニカで知られる彼らが、躍動感のあるヒプノティックなダンスミュージックの世界を作り上げています。テクノの楽しさを凝縮したようなツボを心得た見事なミックス。

Mount Kimbie – Southgate (forthcoming DJ Kicks)

 UKベースミュージック最重要レーベル<Hyperdub>を主宰するコード9と、UKダブステップの王者ブリアルが、これまで数々のテクノアーティストが参加してきたミックスCDシリーズの最後の作品『FABRICLIVE 100』<Fabric>に登場。契約の関係かCD、バイナル、DL配信のみでストリーミングはありません。ジューク/フットワークから、ドラムン、グライム、ベース、テクノ、ユーロトランスまで、時代・ジャンルを超えたダンストラックが荒々しくヒプノティックに融合。暴力的なまでのローのアタックとバイナル盤のスクラッチノイズも生々しいストリート感覚たっぷりの音像は、「ヤバい」という言葉しか出てきません。必聴。

視聴ページ

 The Orbのメンバーとしても活躍するジャーマンテクノの重鎮、トーマス・フェルマン(Thomas Fehlmann)の8年ぶり7枚目のアルバムが『Los Lagos』<Kompakt>。重厚で緻密でダビーなテクノ世界は見事な完成度。様々な音楽的要素を取り込みながらも一貫したフェルマンらしい世界を披露しています。まろやかでいながら強靱な音像も凄い。還暦を超えたベテランによるエレクトロニックミュージックの見事な成熟形です。素晴らしい。

Thomas Fehlmann – Löwenzahnzimmer

 マドリード出身のDJ/プロデューサー、オスカー・モレロ(Oscar Mulero)の新作が『Electric Shades EP』。ベルギーテクノの最前線<Token>からのリリース。EPといいつつ全12曲50分を超えるサイズです。ジャケット通りのクールで幾何学的なアプローチが実に魅力的なディープミニマルテクノで、ストイックで無駄な音が一切入っていない研ぎ済まれたシャープな音像は、それ自体がモダンアートのようでもあります。お見事。

TOKEN83 – Oscar Mulero – Electric Shades EP

 ゼロ年代のミニマル・テクノの代表選手、チリのルチアーノ(Luciano)の9年ぶりのアルバムが『Sequentia, Vol.1』<CADENZA>。バイナルと配信のみのリリースで、彼の運営するレーベル<CADENZA>の15周年を記念しての作品です。ルチアーノらしい中南米の熱気が滲み出るようなトライバルでエスニックなビートが展開されますが、前作で見せたサイケデリックな呪術性のようなものが薄まって、エモーショナルなメロディが前面に出て、よりスッキリと力強く美しいディープ〜テックハウスに仕上がっています。無駄がないのにふくよかで広がりがある。いつもルチアーノは最高ですね。

Luciano – Sequentia Vol.1 – The Amazing Lilou

 UKダンス・ミュージックの天才兄弟Disclosureが今年に入ってシングルを連発しています。

Disclosure – Ultimatum (Audio) ft. Fatoumata Diawara
Disclosure – Moonlight (Extended Mix)
Disclosure – Where Angels Fear To Tread
Disclosure – Love Can Be So Hard
Disclosure feat. Gwen McCrae – Funky Sensation (Extended Mix)
Disclosure – Where You Come From (Extended Mix)

 いずれもR&B/ブラック・ミュージックやディスコ〜ダンスミュージックのルーツに遡っていくようなオールドスクールな素材/手法を、彼らなりのモダンで最高度に洗練されたガラージ〜ハウスミュージックとして再定義していこうという意思が感じられます。近々登場するであろうニューアルバムがこの一連のシングルで占えるかどうかはわかりませんが、これはEDMを筆頭とする現在のダンスミュージックの潮流へのエレガントな抵抗、彼らなりの反時代宣言と受け取りました。

 この連載でも何度か紹介しているLAのビートメイカー、ウィル・ウィーゼンフェルドは昨年バス(Baths)名義で素晴らしいアルバムをリリースしましたが、今度は別名義ジオティック(Geotic)で新作『Traversa』〈Ghostly International / Tugboat Records〉をリリース。「バスはアクティブなリスニングで、ジオティックはパッシブなリスニングである」と本人は説明していますが、ゆったりした四つ打ちとアンビエントでドリーミーなシンセをフィーチャーしたエレガントなミニマルハウスは素晴らしいの一言。展開。美しく漂うようなサウンドは、いつまでも聴いていたいと思わせます。22日からはバス、ジオティックでそれぞれの名義での来日ツアーがスタートする予定。そちらも楽しみです。

Geotic – Gondolier

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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