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ダンスアーティスト/コレオグラファー 辻本知彦、独創的な表現を生み出す“信念”に迫る

リアルサウンド

19/2/3(日) 10:00

 ダンスアーティスト/コレオグラファー・辻本知彦。世界的エンターテインメント集団、シルク・ドゥ・ソレイユのショーに日本人男性として初選出、プレミアム・ダンス・ガラ 白河直子とのデュオ作品 『透き通った夢』で出演・振付を担当するなど、ダンサーとして華々しい経歴を持つ。一方で、土屋太鳳が踊ったシーア「Alive」日本版MVや、菅原小春が踊った『第69回NHK紅白歌合戦』での米津玄師「Lemon」をはじめ、ダンスが大きな話題を呼んだ楽曲の振付を手がけ、振付師としても精力的に活動している。これらのパフォーマンスを生み出した辻本知彦とははたしてどんな人物なのだろうか。今回リアルサウンドでは辻本へインタビューを行い、独創的な表現を生み出す彼の信念に迫った。

(関連:米津玄師、「Flamingo」に見る身体表現における芸術性 辻本知彦が絶賛するダンスセンスに迫る

■「コンテンポラリー」ではなく、あくまで「フリースタイル」

 「実力や身体性、テクニックだけでなく、センス、発想の転換も大事」とダンスについて語った辻本。この日会議室に現れた彼は、持参したPCを開き「作品を見てもらうのが1番早いと思います」と、生き生きした表情で自らが振付を手がけた未発表の新作MV映像を見せてくれた。辻本の振付は、“唯一無二”と言うべき、コンテンポラリーダンスをポップスに昇華したようなスタイル。彼自身は「コンテンポラリー」ではなく、あくまで「フリースタイル」なのだと説明する。コレオグラファーとしてはソロダンスを手がけることが多いというイメージについて「1対1でやるのが好きなんだと思います」としながら、「基本的にダンスであれば、1つに絞らずどんなジャンルでもやりたい。なんでもできるというイメージでありたいです」と、近年、STU48「風を待つ」やRADWIMPS「カタルシスト」のようなポップスの群舞振付にも活躍の幅を広げている理由について語った。

 この日話題に上った楽曲の1つは、シーア「アライヴ」の日本版MV「アライヴ feat. 土屋太鳳」。これは、シーアの「シャンデリア」から得た印象を辻本ならではの表現に落とし込んだ振付だったという。「こういった振付はきっと自分だけではできなかったから、すごく勉強になりましたね」と振り返り、「コンテンポラリーのことをしっかりと学んで、様々な論法を知っていたら作れるものだと思います」とあくまで謙虚な姿勢を見せる。意外性を取り入れることに面白みを感じる一方、王道を学ぶことを大切にしている、とも語ってくれた。

 辻本は仕事相手によって態度を変えないようにしているという。「常識や定義がある中で、僕たちは相手に、価値観の異なる提案をしないといけない。良いものとは、世の中にないものを作ること。世の中にないものこそが面白い」と自らの信念を明かす。辻本は俳優の森山未來とともにパフォーマンスユニット・きゅうかくうしおとしても不定期で活動している。過去『NHKスペシャル』に辻本が出演した際には、森山から「ともさんは(普段と)変わっていないけど、テレビに出られるギリギリ」と評されたことも。そんな芸術的感性の鋭い自らを「必ずしも社会に受けるとは思っていないし、独りよがりになる可能性もあります」と冷静に分析した。

 しかし、冒頭でも触れたように、近年ではポップスの振付を手がける機会も増えた。「これまで交わらなかった人と仕事ができて、自分の感性が刺激されてとても嬉しいです」と明るい表情で語り、そのダンスを見る年代の人を想像して作るのが面白いと、ポップスの振付ならではの魅力を述べる。「(ポップスの仕事をするようになって)そういう考え方ができるようになったことにはすごく感謝しています」と自身が得たことを明かしながらも、「振付師も才能がある人がきちんと評価されるようになって欲しい」と、振付師が置かれる現状について憂慮していたのも印象深かった。

 そんな辻本が振付業に携わる上で大切にしているのは、「アーティストにプレゼントする気持ちでやること」。まず目の前のアーティストに「いいね」と言われるものを作りたいのだという。「振付指導をするときは、振りだけでなく、話している時の目線や手ぶりなど素質的な部分、そして心を見ます」。こうした思いを持ち生まれるダンスだからこそ、多くのアーティストが信頼を寄せ、その踊りにも命が宿っているような熱量が伴うのだろう。

 辻本の足跡をたどると、1995年18歳でダンスをはじめ、2年後に渡米。“世界一のダンサー”を志すも、周囲のレベルの高さに驚き「まずは日本一にならないと」とさらに腕を磨き続けた。およそ10年の歳月をかけて日本人男性では初となるシルク・ドゥ・ソレイユのダンサーに。その後『Michael Jackson The Immortal World Tour』27カ国485公演への出演を果たし、世界で活躍する日本人ダンサーとして注目を集めることとなった。我々の想像を絶する厳しい舞台で経験を重ね、ダンスに情熱を注ぎ続けた辻本。踊るのが自分であれ、他者であれ、ダンサーとしての心得を決して忘れることはない。「僕は相手の本質を見ますし、厳しく評価もしますが、心を込めて真剣に踊れば否定しない。自分が踊るときにそれを心がけてやっているから」。この取材で直接話をしていても、心の奥底まで見透かされているかのような強い眼差しが印象深く、こちらの姿勢とあらゆる方向から対峙する、クレバーでいて真摯な人物像が浮かび上がってきた。

■「見ていてグッとくる、涙が出る踊りがしたい」
 「例えばアフリカに行っても、どこに行っても身一つで自分を表現できる。その方法が僕にとってはダンスだったんです」。様々な自己表現がある中で、絵を描くことでも、歌を歌うことでもなく、踊ることを選んだ理由を明かす。誰かのダンスに憧れたのは、自分がダンスを始めてからだったという。「テレビに出ていなくても才能がある人がいるんだ、と気づいた時に嬉しくなったし、“本物”に会った瞬間に震撼しました」と懐かしそうな表情で当時を振り返った。また、注目するダンサーの話題では、「ヤン・リーピンさんのような人と会って話がしたいし、一緒に踊りたい。白河直子さんとデュオで踊れたこともものすごく幸せで。彼女のような、見ていてグッとくる、涙が出る踊りがしたいですよね」とも。“グッとくる涙が出るような踊り”は、辻本が振付するそれぞれのダンスにも共通する感覚であるように思う。

 人生のターニングポイントについて聞くと、驚くほど多く人物の名前が挙がった。自分の人生や考え方を正したいという時に出会う人は、必ず心に刻まれるのだという。「ダンサーや制作者、アーティストが多いかもしれません。気分が落ち込んだ時に、教えを請いたい、逃げずに話さなくちゃいけない、会いに行かなきゃいけない人がたくさんいる。人と会って触れ合うことで、少しずつ自分の気持ちが正されていくので、全部の作品に『この人に会わなかったらこれはなかった』と思っています」。多くの人とのかけがえのない出会いが、今の辻本を形作っているのだろう。

 最後に挑戦したいことを尋ねると、「演出家になりたい」と力強く語ってくれた。「チャレンジャーでいることが自分の感性を保ち続けることにつながる。誰々と仕事をしたい、という夢をずっと持っていたいですね」。常にストイックに自らの表現に向き合い続けるーーそんな飽くなき探究心が、多くの人を魅了する辻本知彦のダンスや振付を生み出す源になっているに違いない。

(取材=鳴田麻未/文=編集部)

※辻󠄀本の「辻󠄀」のシンニョウは点1つ。環境によっては点2つで表示される場合あり。

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