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いま、最高の一本に出会える

『ゴロウ・デラックス』今春終了に存続希望する多くの声 稲垣吾郎が作る“唯一無二“の空間

リアルサウンド

19/2/11(月) 7:00

 稲垣吾郎がMCを務めるブックバラエティ『ゴロウ・デラックス』(TBS系)が、今春で終了する、というニュースが駆け巡った。それと同時に、これまでゲストとして出演した作家陣、そして毎週楽しみにしてきた視聴者から多くの惜しむ声と、存続希望の声が上がっている。

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 普段なかなか知ることのできない作家のプライベートな一面や、執筆風景を届けてくれる『ゴロウ・デラックス』。稲垣の常に相手をリスペクトする真摯な姿勢によって、作家の心のドアを静かにノックしていくスタンスが見ていて心地いい。決してズカズカと入り込むようなことはせず、「おじゃまします」と靴を揃えて入っていくような奥ゆかしさが、作家たちの緊張と警戒心を解いていくように見えた。

 ときには、クスッとしてしまうような個人的な話も飛び出す。それでも稲垣から漂う上品な空気感のおかげで、私生活を“暴く”のではなく“聞かせてもらう”という紳士的な空気は崩れない。もしかしたら中世の貴族たちが、教養人を招いて知的な会話を楽しんだサロンは、こんな雰囲気だったのではないか? そんな気分にもさせてくれる。

 以前、ゲストで出演した永六輔も「こんなに楽しくなるとは思わなかった」という言葉を残していた。「弱いもの、数少ないものを大事にする姿勢で、下町の本屋さんと同じように、番組を大事にしてください」とも。その言葉に対して、稲垣も「長く続けていきたいんです」と答えていたのが印象的だった。

 忙しい日々の中で、本を手にじっくりと話し合う貴重さ。そこから見えてくる人間の面白さ。一言一句を読み上げてもらう贅沢さ。そして、稲垣の朗読に聞き耳を立てていると、ハッとする。こんなにゆっくりと人の声に耳を傾けるシーンが日頃どれだけ少ないか。私たちは言葉を持つことで、思いや考えを伝えることができるようになったのに、どこかでないがしろにして生きているのではないかと。

 文学を味わうこと。人と人との対話を楽しむこと。そして、言葉の持つ力を見つめること……『ゴロウ・デラックス』という番組がこれほど愛されているのは、そこに日常で見失いがちな“文化”が感じられるからだ。そして、文化はいつだって失われるときになって、初めてその大切さに気づかされる。

 文化とは、築くのに時間と労力がかかるもの。それゆえに、経済と相性がよくないことも。たとえば、丁寧な職人技が光る一点物よりも、大量生産で安価に仕上げられた商品のほうが、多くの人の手に渡るように。人情あふれる個店が集まった商店街よりも、大型スーパーやチェーン店がとって変わってしまう。

 やっぱり、どの都市に出向いても、同じお店が立ち並ぶのは味気ないように、どのチャンネルを見ても同じ風景ばかりではつまらない。その都市ならではの名物料理も食べたいし、そこでしか手に入らない工芸品を買いたい。その番組にしかない味を堪能したいし、その番組だからこそ「出演したい」という人を見たいのだ。

 永六輔の言葉を借りるなら『ゴロウ・デラックス』を愛する人たちは、この番組に下町の小さな書店のような存在感を見出している。欲しいものがなんでも手に入るようなショッピングモールのように、誰もが毎週欠かさず見るような高視聴率番組とは異なるが、大きな経済の流れとは全く別の価値を見出だせる場所。そこに足を運べば、いつもの消耗していく用に流れる時間が、少しゆっくりになるような、そんな空間を。

 そして稲垣という人は、その“唯一無二”の空間を作るのがとてもうまい。彼自身が持つミステリアスな雰囲気が、騒がしい俗世といい距離感を保っているように見えるからかもしれない。2017年にスタートさせたブログも、アイドル・稲垣吾郎という物語を綴るひとつの作品のようだ。親しみが湧きながらも、稲垣らしさを確立させた。2年連続で『BLOG of the year 2018』の優秀賞を受賞するのも納得の結果だろう。

 一人ひとりの人生に、一つひとつの作品に……すべてのものにストーリーがある。その表に出ない物語に、どのような心持ちで近づけば、より深く、より楽しい、新しい文化へとつながっていくのか。きっと稲垣自身がアイドルという長い長いストーリーを紡いできたことで心得た絶妙な距離感が、この小さな書店の店主、いや貴族のサロンのホスト、いやいや知的バラエティのMCとしても、多くのゲストや視聴者に愛されているのだろう。

 もちろん、経済的な面を考慮しなければ、社会はまわらない。しかし、経済の面ばかりを見ていけば、文化的な活動は簡単に失われてしまう。そのバランスを取るには、なくなってほしくない文化への愛を多くの人が自覚することから始まるはず。惜しむ声を上げるタイミングは今。始まりには必ず終わりがくるものだが、愛情を表現した言葉はなかったことにはならない。改めて筆者個人としても、この番組の存続を心から願っている。(文=佐藤結衣)

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