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東出昌大、出演作の共通点は“苦悩する若者”? 三島由紀夫原作舞台『豊饒の海』起用の必然性

リアルサウンド

18/11/13(火) 12:00

 「できる奴は何でもできるし、できない奴は何もできないってだけの話だろ」と、冷ややかにつぶやいて、東出昌大はバスケットゴールにシュートをきめる。彼の俳優デビュー作である『桐島、部活やめるってよ』(2012)でのことだ。彼はこの作品への出演を機にモデルから俳優へと完全なる転身を果たし、以来、さながら真っ直ぐに伸びたランウェイでも歩くかのように、人々の注目を浴びながら進んできた。

 あれから早6年にして、まだ6年。やはり彼は、“何でもできる奴”だったのだろうか。公開中の映画『ビブリア古書堂の事件手帖』、そして上演中の舞台『豊饒の海』で、いずれも苦悩する若者を演じているというのが興味深い。

【写真】『豊饒の海』の舞台に立つ東出昌大

 これまでにも東出は、多くの苦悩する若者を演じている。そもそも前出のデビュー作こそが、苦悩を抱く男子高校生役であったのだ。思い返してみるとキャストのほとんどがまだ10代。モデル業を廃業し、20代半ばで役者の世界に踏み込んだ彼自身、運や勢いだけでの行動ではなかったはずである。当然そこには、思慮をめぐらせた上での苦悩の選択と決断があったのではないだろうか。『クローズEXPLODE』(2014)で主演に抜擢されてからもなお続くその路線は、現在にまで伸びている。“東出フィーバー状態”であった2018年下半期、『OVER DRIVE』や『菊とギロチン』『寝ても覚めても』と、止まらぬ勢いで新たな顔を見せ続けたが、ここで演じた人物たちもまた苦悩を抱える存在だったのだ。

 いわゆる“キラキラ映画”と呼ばれる作品に挑んだ『アオハライド』(2014)や、熱狂的なファンを持つ『GONIN』(1995)の続編主役という重責を担った『GONIN サーガ』(2015)、コミカルなキャラクターもいけることを証明した『ヒーローマニア-生活-』(2016)、実在する将棋棋士・羽生善治という人物像に、ディテールを徹底するアプローチで迫ったみせた『聖の青春』(2016)、そして、人妻に恋心を抱いてしまうという、またも苦悩の若者を演じている『ビブリア古書堂の事件手帖』。東出のキャリアを振り返ってみると、彼は同系統の作品やキャラクターに連投するということをしていない。かと言って、当初から器用な俳優という印象ではなかった。彼は“何でもできる奴”なのではなく、特定のジャンルに安住を求めず、絶えず“何でもやってやろう”という歩みを止めなかったのだ。そこにはやはり、私たちの知らぬ苦悩というものもあったはずである。

 その東出が主演を果たした舞台『豊饒の海』は、彼にこそ相応しい作品だ。本作の原作は、『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の4巻から成る、三島由紀夫が遺した最後の長編小説。東出が演じる松枝清顕の人物像については割愛するが、彼は本作において「美」の象徴である。それをめぐる物語なのだから、この「美」に説得力がなければ成立しない。そして彼もまた、自身のうちに苦悩を抱える若者なのだ。若者の苦悩は三島作品における主題の一つでもあるし、東出の起用には必然性さえ感じられる。

 素舞台に近いつくりのステージで、彼らは身体と言葉だけで観客に立ち向かう。宮沢氷魚、上杉柊平といった高身長の俳優が並ぶ中、190センチ近い長身の東出は彼らよりもさらに大きく、少し鼻にかかったような特徴的な声は舞台でもより強みとなった。彼しか持ちえないこの特徴は、松枝清顕という人物がただならぬ存在であることをより印象づけることをも可能にしたのだ。三島作品特有の美しい言葉の一つひとつは、彼のしなやかな身体の動きと伸びやかな声によって、私たちの元へと届くのである。

 映像作品とは違い、舞台には逃げ場がない。息を呑んで見つめる観客の瞳を、彼らは生身で受け止めなければならないのだ。観客の態度や反応は如実に彼らに伝わり、それは演技にも反映される。演じ手と観客の間に生じるコミュニケーションである。三島ファンであることを公言する東出だからこそ、並々ならぬプレッシャーを受けていたのではないだろうか。だがカーテンコール(筆者はプレビュー公演初日を観劇した)では、笑顔を見せ、劇中での彼とはまるで違う清々しさで、「ありがとうございました」と言い放つ姿が印象的であった。たしかな手応えを感じた証だろう。いち俳優として、いち男性として脂の乗りはじめた30歳の東出昌大。身体と声を通して言葉を扱う、そんな俳優の道を選んだ彼のターニングポイントとして申し分のない作品となった。

(折田侑駿)

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