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Nulbarich、ファンと心を交わした夜 バンドの夢を叶えた日本武道館公演

リアルサウンド

18/11/26(月) 18:00

 Nulbarichというバンドに出会って、その音楽が自分にとって特別なものになって、しばらくの時間が経った。ずっと自分にとってNulbarichの音楽を聴き、それについて考えるということは、「ポップスとは何か?」を考えることと、ほとんど同義だった。Nulbarichの音楽はCDやレコードだけでなく、ラジオやテレビCM、YouTubeなど公開されるミュージックビデオ、また最近ではApple MusicやSpotifyのようなサブスクリプションサービスを通して、すさまじい速度で世に浸透していった。結成から2年で日本武道館ワンマン公演をソールドアウトさせるに至る、その拡散速度は本当に前例のないものだったと思うが、しかし、その人気の過熱ぶりが当然だと思えるほどに、彼らの楽曲は明快にポップで、あえて雑な言い方をすれば「お洒落」で、そして、様々なリスニング空間に対応できる優れたプロダクションを持っていた。

 でも、それだけじゃないーーそう感じさせるものが、Nulbarichにはあった。広く大きく伝わっていく、その洗練された魅力とは矛盾しない形で、彼らの音楽には常に泥臭さがあった。どれだけ洗練されていようと、そこにはどこか不器用な人間の影が滲んでいたし、体温が宿っていた。その音楽は、まるで手紙のようだった。美しい便せんに、その人にしか書けない独特な字で書かれた手紙。「俺は今、こうしてる。こんなことに苦しんで、こんなことに喜んでいる。そっちはどう?」と、その音楽は語りかけてきた。日本語と英語が絶妙に入り混じった歌詞は、不思議とストレートに彼らの言いたいことを伝えているようでもあった。Nulbarichは、ただ1対1で語りかけてきた。饒舌に、その音楽は、自身が生まれるに至った理由ーーすなわち、作り手の人生を語っていた。

 Nulbarichの音楽には、人生がある。そのことに気づいてから、Nulbarichは自分にとって「ポップス」という言葉のひとつの定義になった。

 だからこの日、日本武道館のステージに立つNulbarichの姿を見たときに自分の中に宿った感覚は、祝福と親密な喜びだった。

 11月2日に開催された、Nulbarichの自身初となる日本武道館ワンマン公演『Nulbarich ONE MAN LIVE at 日本武道館 The Party is Over』。このライブのタイトルとなった「The Party is Over」とは、彼らが2016年にリリースした1stシングル『HOMETOWN』のタイトルトラックで、1stフルアルバム『Guess Who?』にも収録された「Hometown」の歌詞にある一節である。

I say hello, hello, hello
I’m on roll
Here I come
the party is over, over, over
It’s over
Stay back now it’s my turn
(Nulbarich「Hometown」)

 「the party is over」ーーそれがNulbarichの出発点だった。まるで初めて世界と出会った赤ん坊の産声のように、あるいは力強い選手宣誓のように、彼らは繰り返し唱えた。「パーティーは終わりだ」と。Nulbarichは、そんな場所から始まったバンドだった。そして、この日も、ライブは「Hometown」から始まった。

 バンド編成は、3人のギター、2人のキーボード、そして2人のベース(曲によってはウッドベース、シンセベース)、ドラム、ボーカリスト・JQの9人。音源では細やかなメロウネスを響かせていた「Hometown」は、ヘヴィなファンクサウンドとなって、武道館を揺らす。続く「It’s Who We Are」では、早くも会場からハンドクラップが巻き起こる。それに鼓舞されるようにエモーショナルに響くギターソロ。6面スクリーンに大写しになったJQは、いつもと変わらないように見せかけて、どこか喜びを隠しきれないような表情をしている。「夢、叶えてくれて本当にありがとう」とオーディエンスに語りかけるJQ。緊張をほのめかしながらも、彼の言葉はいつものように等身大で、誠実だ。

 序盤は「そろそろ一緒に歌ってもいいんじゃない? 最初は俺が歌うから、曲に入ったらみんなで歌おうよ」と始まった「NEW ERA」の合唱、そして強靭でグルーヴィなバンドサウンドにライブアレンジされた「In Your Pocket」で会場をハイライト級に大いに盛り上げ、中盤に入るとよりドープな音世界へ聴き手を誘う。「結成当初、こんな曲が武道館で流れてたらヤバいよねって、居酒屋で話してたんだよね」と始まった「Spread Butter On My Bread」。そして「Supernova」、「On and On」、セッションゾーンを通して新曲の「JUICE」へと至る流れは、何かを確かめ合うようにしながら演奏するステージ上の9人の、バンドとしての物語、その絆の強さを感じるような時間だった。「On and On」では、なんとJQがドラムを披露。そのままセッションへと流れ込み、新曲「JUICE」もドラム&ボーカルとして歌い上げるというサプライズ演出も。そもそもはドラマーだったというJQ、「もう1個の夢叶えちゃいました。武道館でドラム叩いたぞー!」と無邪気な喜びを露わにする。Nulbarichはミステリアスなバンドだが、その実、ものすごくピュアな衝動を抱えた音楽好きが集まったバンドなのだということは、そのステージングを見ればわかる。

 セッションタイムが終わり、「Ordinary」、「SMILE」と、軽快でキュートなポップさを持った楽曲たちが続く。それまでJQの姿やメンバーの手元を映し出していた6面スクリーンには、歌詞も映し出される。この日は他にレーザーもあり、サウンドごとにカラーを変えていく演出も見事だ。そして、リリカルなギターリフに始まり、強靭なビートと覚醒感を持ったメロディが会場を包み込んだ「Kiss You Back」、よりダンサブルに、ディスコライクにアレンジされた「Zero Gravity」、新曲「VOICE」、もはやアンセム然とした貫禄を持って響いた「ain’t on the map yet」、会場から溢れる万雷の拍手に彩られながら始まった「Follow Me」ーーこの流れは、凄まじいほどの多幸感に満ちた時間だった。

 そして、JQが渾身の歌声を響かせた「Almost There」。「いろんなヤツがいる。上を見ればキリがないし、足元には綺麗なものはある。どこに行けばいいのかなって迷うけど、俺らはまっすぐ歩いていこうと思います」。この言葉と共に始まった「Heart Like a Pool」。会場全体のシンガロングに彩られたこの曲で、本編は締めくくられた。

 そして、アンコール。ステージに再び登場したメンバー。JQは、「まずは父ちゃんと母ちゃん、生んでくれてありがとう。音楽を教えてくれたのは姉ちゃんで、弟は……相変わらずだな。そして、メンバーと、みんなと会えてよかった」と、家族とメンバー、そしてオーディエンスに真っ直ぐな感謝を伝えた。そして、こう続けた。「もし、世の中が平等なら、次は俺らの番だと思ってた。俺らの番にしてくれたのはみんなだ」。喜びも感謝も、かつて抱えていた悔しさも、何も隠すことなく、Nulbarichはこの日、武道館のステージに立っていた。物語を共有したとか、そんな大それた言い方は似合わない。ただ、自分の人生と彼らの人生がこの場で出会って、心を交わした。それが、ただ奇跡だった。そして始まったのは、「LIFE」。

 最後は、「人生」の歌で締めくくられた。

(文=天野史彬)

オフィシャルサイト

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