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姫乃たまが南波一海に語る、“地下アイドル人生”と卒業後の活動「試行錯誤しながら成長していく」

リアルサウンド

19/3/12(火) 7:00

 2019年4月30日をもって“地下アイドル卒業”を予定している姫乃たま。同日には東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて最後のワンマンライブ『パノラマ街道まっしぐら』を開催する。今回は連載「音楽のプロフェッショナルに聞く」特別編として、かねてより親交のある音楽ライター・南波一海が姫乃にインタビュー。10年に渡る“地下アイドル人生”を振り返りながら、これからの活動、卒業後のファンとの関係の築き方などをじっくりと語ってもらった。(編集部)

(関連:姫乃たまが東洋化成に潜入! カッティングエンジニアに聞く、アナログレコードへの思い

■「地下アイドルとアダルトの仕事を行き来していた」

ーー今日は「地下アイドル人生の総括的なインタビューを」ということなんですが、姫乃さんのキャリアを振り返るとなると……。

姫乃:私がインタビュアーだったらやりたくないです! 地下アイドルとしては嬉しいですが……。

ーーできる限り頑張りたいと思います。そもそも僕が姫乃さんを認識したのは、キャットファイトをやっている頃(2012~2013年)なんです。

姫乃:そんな時期から! ちょうど改名して、グラビアやエロ本の仕事に没頭していた頃ですね。

ーー最初ぱ*☆姫乃☆*゚名義だったんですよね。

姫乃:はい。活動当初は右も左も自分の疲れもわからなかったんですけど、あとからガタっとくるじゃないですか。活動を始めた2009年はまだまだ地下アイドルがアキバ系カルチャーの延長線上にあって、私はアキバ系に疎かったので、「これでいいのかな?」って試行錯誤した疲れがその頃は一気に来ていました。

ーー当時は「秋葉原の路上を経験してないくせに」みたいな目線もあったんですよね。

姫乃:ありましたねえ。2008~2009年にSNSの普及で一気に地下アイドルが増えて、まさに私もそのひとりですけど、「甘い」みたいなことを言われてました。それ以前はなかなかライブハウスを貸し出してもらえなくて、秋葉原の歩行者天国とか、苦労して活動場所を開拓していたんですよね。それを経験してない世代は甘いっていう。実際、いい加減な子も多かったですよ(笑)。ブッキングライブなんて誰かしら来ないのが当たり前だったし。それは先輩たちも許せないですよ(笑)。ほんの10年前ですけど、なんだか大らかな時代でした。

ーーで、よくわからないままがむしゃらに地下アイドル活動をしていて、疲れが来ていたと。

姫乃:3年目くらいに緊張の糸が切れて鬱病になってしまって、一瞬活動休止もしたんですけど、それを救ってくれたのがエロ本でのライター仕事でした。地下アイドルのライブを初めて見た時、誰も他人の生き方や趣味を批判しないところに心を打たれたんですけど、アダルト業界の人たちは、読者の方も含めて、もっと自分自身に近い生きづらさが感じられて、交流することで心が救われてたんです。たとえば特殊性癖があって「自分だけじゃないか」って肩身の狭い思いをして生きてきたけど、インターネットが普及したことで初めて仲間に会えて……みたいな人にお話を聞けるんです。単純に文章を書くのが好きで、それが仕事になったのが嬉しくて、エロ本の仕事にどっぷりでした。キャットファイトをやっていたのは……古賀学さんっているじゃないですか?

ーー『水中ニーソ』の。

姫乃:はい。私、ああいうアンダーウォーター(水中に潜っている存在をターゲットにした性的嗜好)とかウェット&メッシー(人をさまざまな物で汚したり、濡らしたりする欧米発祥の性的嗜好)が好きで。ウェット&メッシーはエロ本の仕事をするうえで知ったんですけど、その関係で新宿ロフトプラスワンに「くすぐリングスNEO」というキャットファイトを取材しに行ったんです。それが衝撃で。

ーーそれでキャットファイトを主催したりしていたんですね。なので、僕が知った時点で姫乃さんはすでに地下アイドルとしてちょっと変わった立ち位置にいたんですよね。

姫乃:活動初期はどうしてもほかの新人の子たちと横並びにさせられるじゃないですか。性格的にそれがしんどくて。まあ誰でもそうだと思うんですけど。なるべく人と競いたくないんですよね。

ーーライターをやることによって、横並びの競争から外れたから楽になったということもよく言っていますよね。

姫乃:そうですね。文章を生業にしていると、ライバルから外されるというか。アイドルは短命だから短期集中しないといけないのに、文章書くってものすごく効率悪いですからね(笑)。

ーーその結果、逆に長く活動できるスタンスを確立したという。

姫乃:地下アイドルを長くやりたかったのかって言われるとまた別問題なんですけど、長生きしてしまったという感じですね。アダルト関係の仕事は水に合ってて、本当に好きでした。

ーー姫乃さんはアイドルを長くやりたいとは考えていなくて、流れに身を任せていたらこうなっていたというタイプですもんね。

姫乃:逆にいつ辞めるんだろうってずっと思ってました。それだけ居心地もよかったんだと思うんですけど。活動初期はインディーズのアイドルが今ほど単体のカルチャーとして独立していなかったから、最終的にはテレビに出てメジャーな芸能人になるんだっていう意気込みが業界全体に強く残っていたので、アダルトの仕事をしていると「経歴に傷がつく」とかよく言われましたね。

ーーまったくハンデになっていないですよね。それどころか強みになっている。以前、ブログに「AV女優になるのではないかという件について」というエントリで長文を残していますよね。

姫乃:地下アイドルとアダルトの仕事を行き来してたので、周囲もAV女優になるんじゃないか心配し始めて……。でもAV女優って、私なんかにはなれないですよ。アダルト業界への尊敬も込めて文章を書いたら、広がっていったんですよね。その流れで大きく状況が変わったなと思ったのは、僕とジョルジュのアルバムと本(『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』)を出したときです。

ーー2015年の8月、9月。

姫乃:僕とジョルジュの最初のリリースイベントが秋葉原のタワレコであったんですけど、満員で、お客さんも知らない人ばっかりだったんですよ。それまでは地道にライブハウスでやって、握手して、会話して、関係値を積み上げてファンになってもらうっていうことが多かったので、飛び級したみたいでした。今まではなんだったんだろう、っていうくらい色んな人と一気に出会って。『潜行』のリリースイベントもチケットが売り切れて、まったく知らなかったような人がぎゅうぎゅうに見に来てくれて。

ーー別個に存在していたパズルのピースがパチっとハマった瞬間がその時期あたりだったんでしょうね。

姫乃:その直前に、おたぽるとブログに書いた文章が同時に話題になったんですよ。おたぽるは地下アイドルのルポで、ブログはさっき言っていただいたAV女優に関しての記事だったので、文章を書くエロ本出身の地下アイドルっていう、相当いびつな形で世間に認知され始めたのが2015年でした。それから本とCDのリリースがあって、という感じですね。

ーーちなみに2010年以降、アイドルが大きなブームになっていく流れの直接的な恩恵はあったんですか?

姫乃:うーん、強いて言えば、2009年頃はライブハウスが楽器弾かないやつには貸さない、という感じで本当に借りられなかったんですよ。LOFTさんがたまに貸してくれたりしたんですけど、まだまだ敷居が高くて。私が初めてライブをやったのが四谷のLive inn MAGIC(現Honey Burst)だったんですけど、そこはプレアイドルがずっと活動拠点にしていたライブハウスなんです。

ーー歴史がありますよね。

姫乃:ライブハウスはそこと神楽坂EXPLOSIONくらいで、あとは会議室やカラオケのパーティールームとか、飲食店で主催イベントをやったりしてました。AKB48がブームになってからは、徐々にライブハウスも貸してくれるようになっていって。それでも対応がひどいところもありました。オケを故意に途中で止められたりとか(笑)。トラブルでそういうことはよくありますけど。

ーーひどい(笑)。

姫乃:あとはそのあたりからオーディションの機会が増えて、ちらほらテレビに出たりすることがあったんですけど、雑に扱われたり、オーディションでセクハラみたいな質問をされて嫌な思いをしたりしている子もいました。

ーー無名のアイドルだからいいだろうと。

姫乃:それで地下アイドルが裏話をするトークイベントを始めたんですよ。いま思えば、それがおたぽるでルポを書くきっかけになっています。あ! アイドルブームの恩恵と言えば、渋さ知らズオーケストラが日比谷野音で全曲コラボするコンサートを開催して、HBY28っていう一般公募のアイドルと一曲だけ演奏する企画をやったんですよ。それに声をかけてもらって、野音で渋さと一緒に踊れて、共演者の小島麻由美さんのサインをもらえました。それが一番の恩恵かもしれません(笑)。

ーー最高じゃないですか。

姫乃:地下アイドルってまだ知られてないから、嫌な思いもするけど、珍しい肩書きだけでいろんな仕事がもらえるんじゃないかって気づいたきっかけだったと思います。

■音楽面で支えたSTX、レーベル担当者との出会い
ーーこういう機会なので聞いておきたいのですが、姫乃さんを音楽面で初期から支えているSTXことSpace Thunder Xさんとはどういう経緯で出会ったのでしょうか。

姫乃:知人の紹介です。高校生のときに、青山蜂でよく遊んでたんです。

ーー通っていた高校が近かったのもあって。

姫乃:そう。DJパーティーによく遊びに行っていたんですけど、そこのDJとVJの人たちに誘われて新宿のロフトプラスワンで初めて地下アイドルのライブを見て。その時に誘われたのがきっかけで、地下アイドルのライブに出るようになったんです。彼らが作曲してくれる人を探してくれて、紹介されたのがSTXさんでした。

ーー初期も初期の話なんですね。

姫乃:2010年には会っていたので、ほぼ10年近く一緒にやってますね。

ーーオリジナル曲を最初にもらったのはSTXさんからなんですか?

姫乃:いや、初めて地下アイドルを見に行った日にいたDJの人がミュージシャンでもあったので、彼の作曲した曲が最初です。それ以降はSTXさんがずっと面倒を見てくれています。入れ替わり立ち代わりでいろんな作曲家さんが参加してくれているんですけど、最初から今日まで付き合ってくれているのはSTXさんだけですね。こういう曲を歌ったらこの先こういう展開で活動していけますよとか、先を見据えて仕事してくれたのはSTXさんだけでした。私自身も長く続けるなんて思ってもみなかったので、当時は全然ピンと来てなくて、そんなこと言われてもいつ辞めちゃうかわからないし……っていう感じだったのが、10年経ってやっと意味がわかってきました。

ーーあの時はこういう戦略を立ててくれていたんだ、とあとになって気づいた。

姫乃:そうです。STXさんごめん……。最初はヲタ芸で会場がいかに盛り上がるか、みたいなことしか考えてなかったんですけど、STXさんが作ってくれた「ねえ、王子」という曲はヲタ芸ができないのにアンセムソングになって。ファンの方がお祭り状態で盛り上がるんじゃなくて、歌詞の内容に癒やされるっていうのを初めて見たんです。ああ、これはいいなと思いました。それが後々、町あかりさんと“バブみ”をテーマにアルバム制作するのに繋がっていきます。

ーー僕とジョルジュのリリース以降、姫乃さんが広く認知されていくことになるわけですが、レーベル担当者のディスクユニオンの金野さんとの出会いも大きいと思います。どういう経緯で知り合ったんですか?

姫乃:あー、にゃはは。マーライオンっていう同い年の男の子がいて、彼がディスクユニオンからアルバムを3枚連続でリリースしてたんですよ。その後、同じレーベルからぱいぱいでか美ちゃんもCD(『レッツドリーム小学校』)を出すことになったんです。私、普段嫉妬とかしないようにしているんですけど、それが本当に羨ましい作家陣で。あの時ばかりは「うわあああ!」ってなりました。

ーー錚々たる顔ぶれでしたよね。

姫乃:藤井洋平さんでしょう。川本真琴さんでしょう。テニスコーツの植野隆司さん、スカートの澤部(渡)さん。し、か、も、コーラスで劇団ゴキブリコンビナートのほりぼう(堀内暁子)さんが!!!!! うわあああ! で、マーライオンくんとぱいぱいでか美ちゃんが渋谷のHMVでインストアイベントをやるときに、2人の共通の友人だった私を呼んでくれて、3人で出ることになったんです。その時にレジカウンターでゴネてるお客さんがいて、インストアイベントって観覧無料だからやっぱり変な人いるなあと思いながら楽屋で談笑してたら、その人が楽屋に入ってきて。

ーーやばい客が入ってきたぞと。

姫乃:そしたら「ディスクユニオンの金野さんです」って紹介されて。どうしてゴネてたかっていうと、ぱいぱいでか美ちゃんがリリースした際にタワーレコードのポスターを作ったんですけど、それをHMVの店内に貼ろうとして、店員さんに「さすがにそれは……」って言われていたんです(笑)。

ーー変わった人だったわけですね。

姫乃:イベント中も全然話さなくて、打ち上げに誘われて驚いたんですけど、「この店のおいしいものは全部頼んでおいたので帰ります」って言ってすぐ帰っちゃってまたびっくりして。変わった人だなあと思っていたら、待てど暮せど食べ物が届かないから、伝票を見てみたらオリーブオイルとパンとワインしか頼んでなかったという。最後の晩餐かよ! だからまったく会話はしなかったんですけど、その一週間後くらいに突然「CD出しましょう」っていうメールが来たんですよ。それが金野さんと私の出会いです。

ーーそして僕とジョルジュに繋がっていくと。でか美さんのアルバムを羨ましいと思ったということは、自分もこういう人選で作ってみたいというビジョンはあったんですか?

姫乃:いや、それがなかったんですよ。羨ましかったですけど、姫乃たまにこういう仕事させたいって気持ちが私の中にないので。最初はスカートをバックバンドにソロアルバムを出しましょうっていうオファーだったんですけど、それまでずっとSTXさんとやってきたので、仁義的にそこをすっとばしていきなり全国流通はちょっとなしだなと思って。ちょうどスカートもカクバリズムに所属するくらいの時期で、忙しくなっていたので、双方難しいということでバラシになって、ソロが難しいならユニットにしましょうということで金野さんに集められたのが佐藤優介さんと金子麻友美さんだったんです。結局澤部さんも楽曲提供で参加してくれたり、ガセネタの山崎春美さんがデュエットしてくれたり。あとはシマダボーイくんがレコーディングに参加してくれて、最高でした。

ーー『僕とジョルジュ』を出したあとに、満を持して濃密なソロアルバム『First Order』を出すことになっていくわけですが、この時期はリリースペースがすさまじいですよね。

姫乃:隔月で出してるんじゃないか、くらいの。ソロアルバムはSTXさんを中心に、藤井洋平さんにも参加してもらいました。金野さんとは相性が良かったんですよ。私はやりたいことがなくて、金野さんは音源でやりたいことがたくさんあったから。レコードもカセットも出させてもらったし。2016年からは西島大介さんとのユニット「ひめとまほう」のリリースもあったので、年間を通じてずっとインストアイベントをやっている感じでした。

ーー姫乃さんを素材として一緒になにかを作るのは楽しそうですもん。

姫乃:なにも嫌がらないですからね(笑)。なにもNG出したことなかったんじゃないかなあ。

■“地下アイドル卒業”決意に至るまで
ーー少し話が前後しますが、町あかりさんがプロデュースした姫乃さんの前作『もしもし、今日はどうだった』(2017年8月)を出したあと、作る時は人を癒やしたいという気持ちがあったけど、それは驕りだったというようなことを言っていて。改めて振り返ると、あの時はどうして癒やしに向かったのでしょうか。

姫乃:地下アイドル以前は肩身狭く生きてきたので、自分が地下アイドルをやることでファンの居場所をつくって幸せになってほしいと思ったんですよね。ずっとファンに恵まれてきたこともあって。ただここ数年は関係が難しいですねえ。概ね良好なんですけど、難しいことが出てきました。

ーーよく言っていますよね。ファンの“ガチ恋”で悩んだのと、このアルバムは時期的にはズレているんですか?

姫乃:えーっと、アルバムリリース後に初めてガチ恋関係のトラブルが起きたんだと思います。その前に小金井市の刺傷事件があって、報道のラッシュで精神的にもやられていて、自分のやっている仕事が怖い仕事だって初めて気づいたんです。幸せ者なので、それまではそう思ったことが一切なかったんです。今まではアキバ系のコアなアイドルカルチャーの中にいたから、ファンの中にも線引きがあったのかもしれないですけど、そこから外れていくことで、徐々にアイドルとファンの境目を見失っていくファンがでてきたんだと思います。

ーーそれで“ガチ恋”の人とのトラブルがあって。

姫乃:これは本当に仕事辞めなきゃいけないなっていうところまで来て。新規の仕事は全部断って、もう決まっているイベントも出られないかもってところまで追い詰められた日が、ロマン優光さんの出版イベントだったんです。「なんかあったらオレが殴ってやる」って言ってくれて、この人だったら本当に殴ってくれるなと思って(笑)、休まずに済んだんですよ。

ーーロマンさんのお陰で休業を回避(笑)。

姫乃:ロマンさん、ありがとう。覚えてないと思うけど……。それでもしばらくは怖かったし、好意と癒しを与え合う自分の仕事に罪悪感を覚えたりもしたんですけど、やっぱりそれは純粋に応援してくれてるほかのファンに失礼だと思って、「もしもし、今日はどうだった」と一緒に“癒やし”をがっつり提示していく覚悟を決めたんです。それからしばらくはよかったんですけど、やっぱり「あ、これダメだ」と思う出来事があって。

ーーそれが“女ヲタヲタ”の話。

姫乃:そうですね。彼氏がいるって公言しているファンの女の子に対して恋愛的なアプローチをして、結果的にトラブルを起こしてしまうという。衝撃だったのが、そういうことをする人ほど、熱心なファンだったことです。癒やしを与えていたのはいいけど、ぬるま湯みたいなところにいさせてしまったことにやっと気づいたんです。地下アイドルとファンだから良好な関係を築けていたけど、線引きしなくていい女の子相手だと、こんなコミュニケーションの取り方をしてしまうのかと衝撃でした。私自身も人として成長したかったし、ファンについてもこれはいかんなと思ったのが地下アイドルを辞める1つの理由でもあります。

ーー夢眠ねむさんがクソリプを送る暇があったら恋愛してほしいと言っていて。まともに恋愛をすれば、普通の女の子にしていいこととダメなことがわかる、と。

姫乃:いやー、彼らはプロのアイドルファンなので、アイドルに対する態度は100点満点なんですよ。ほんと。私も「アイドルファンは恋人に最適!」とかメディアで言いまくってて。でも、そういう人ほど実際に恋愛していい現場のファン同士になるとポンコツになることがわかったので、地下アイドルを辞めて垣根を解除したら、今後は人間同士として接するぞっていう気持ちがあります(笑)。16歳から地下アイドルとして生きてきたので、もはや恋愛禁止のアイドルより、現実世界の人間関係のほうがずっと厳しいですね。

ーーなるほど。今はそのことで悩んだりはしていない?

姫乃:今は……まあそんな感じなので前より期待感がない分悩んではいないです。この間、ふちりんさんっていう、石川梨華さんにずっとガチ恋している人にイベントのゲストに来てもらったんですよ。その場にいるファンの人にも登壇してもらって、ガチ恋エピソードでイベントはすっごい盛り上がったんですけど……。

ーー姫乃さんはガチ恋の気持ちが理解できなかった。

姫乃:私はもともとアイドルヲタクの素質がないんですよね……。みんなはめちゃくちゃグルーヴしてるんですよ。でも逆にそこからは楽になれたかもしれません。前は私が応援してもらってる分ファン全員を守らなきゃっていう意識があったんですけど、今は大人同士ですから自己責任で……みたいな気持ちです。

ーーただ、自己責任とは言っても危険はゼロではないわけで。

姫乃:今までは「地下アイドルになりたい」っていう子がいたら「なったらいいよ!」とか無邪気に言ってたんですけど、最近はそこまで明るく言えないですね。向き不向きあると思います。

ーーなにか事件があるとメディアに電話取材されたりするじゃないですか。「やっぱりアイドルは危険もありますよね?」みたいな前提で質問されたりすると、うんざりしながら「そんなことはないですよ」と否定したくなるけれど。

姫乃:そう、可能性はゼロじゃないんですよね。でもそれをメディアに言っちゃうと、そこだけ切り取って報道されるから問題なんですけど。基本的には平和じゃないですか。私もそういう被害には遭っていないほうで、今日の話も活動の本当にほんの一部の出来事なので。

ーーこれからもちゃんと活動を続けるために、4月いっぱいで地下アイドル卒業することになると。

姫乃:はい。ちょうど10年ということもあって。キリが良過ぎますよね。2019年4月30日が10周年の日……。

ーー平成とともに姫乃さんのアイドル時代も終わる。ただ、常々言っていますけど、今後も活動はしていくわけで、活動内容が劇的に変わるわけではないんですよね。

姫乃:そうですね。地下アイドル代表みたいにメディアで取り上げられるのがキツかったので、それは辞めます。昔話ならいいんですけど、昔話してもしょうがないので……。最初は地下アイドルのルポを書いて仕事をもらえるようになって、地下アイドルも文章も好きだから嬉しく思っていたんですけど、文章を書けば書くほど、地下アイドルのことを思っているはずなのに業界からどんどん弾かれていく感覚があって。当初はそれに傷ついていたんです。しかもそのあとに“地下アイドル残酷物語”みたいなのがマスメディアで流行ったじゃないですか。もしかしたら私のルポのせいもあるのかなとちょっと思っていて。そのあとに小金井の事件があったから、業界のイメージをよくできるならと思ってできる限り取材に対応したけど、仕事的にはその後もどんどん業界から遠ざかっていったんですよ。そんな私が表立って出ているのをよく思っていない人もたくさんいるだろうなと思って。それも卒業する理由としては大きいです。私が卒業発表してから、低賃金問題とか運営のパワハラ問題とかもあったじゃないですか。

ーー地下アイドルの搾取問題ですね。

姫乃:私はフリーランスなので運営もいないし、むしろ自分が仕事を発注する人に対してパワハラしないように注意しないといけない立場なので、いよいよわからない、コメントできない問題が出てきたな、と。だから時期的にはちょうどよかったと思ってます。

■これからのファンとの関係の築き方
ーー今後は地下アイドルの立場を離れるわけですが、気になることはありますか?

姫乃:10年ぶりに“人間界”に戻るわけじゃないですか。いままで地下アイドルとしてしか生きてこなかったので、タイムスリップみたいな感覚というか。高校1年生が、いきなり現世で26歳になってるわけですよ。どうしたらいいのかわからない……。

ーーアイドルじゃなくなってもファンとの関係は続いていくじゃないですか。ファンタジーが一枚剥がれるような感覚はあるんですか?

姫乃:人間対人間になるわけで、以前より、ライブハウス以外で私も彼らも現実の世界を生きているんだよなあという実感があります。急速に魔法が解けていっている感覚がありますね。卒業を発表してから。冷静になったら負けだって瞬間がたくさんあります。地下アイドルの自分や、ライブの熱気を俯瞰してしまうというか。これはいままで自分が守ってきた関係でもあるわけじゃないですか。生き辛さを抱えているけど、地下アイドルとして、ヲタクとして、ライブハウスに居場所を見つけられて幸せっていうのが、いままでの私が話したり書いたりしてきたことだけど、地下アイドルとアイドルファンという既存の構造を失った時、どうしたらいいのか私もわからないんです。今後は地下アイドルでも、いわゆる歌手でもないし、微妙にライターでもないのに……そもそもライターのファンってなんだって感じですけど(笑)、一体どういう関係性なんだろうっていう。友達とかになれるんだろうか。どうしたらいいものか。難しいです。

ーーどう関係を築いていくかは手探りになりそうですね。

姫乃:なるようにしかならないですね。毎月「実話ナックルズ」でアイドルにインタビューしている中で、ファンと共同墓地を作るために、無人島の購入を検討してるっていう人がいたんですよ。最終的には自分たちもそこに入って、宗派も関係なく、ヲタ芸で法会をするって言っていて。

ーー一緒に年を取っていくと。姫乃:そうそう。あと老人ホームをつくるとか、家を買ってみんなで住むとか、私もわかるわかるーと思って聞いてたんですけど……だんだんわからなくなってきて。

ーーリアルに考えられるようになってくると、どうなんだろうと。

姫乃:地下アイドルやるうえでキャリーケースを運ぶのがつらくなってきたこともあって……。自分の体がつらくなるとファンの加齢や体力の低下もよりリアルになりますよね。今の私はシェアハウスとか無人島とか考えられるけど、今後彼らの体力がなくなったときに私も面倒見られる状態なのか不安です。

ーーそこですか。

姫乃:あと、このまま一生「楽しいね」っていうだけでいいのかなって気持ちも強くて。10年付き合っているから、ファンに対しての責任も感じるので、どうしてあげたらいいのかなって思うんですよ。私が地下アイドル卒業するとか人間になるとか言うのも、長い目で見たら、まだみんなの体力がある今のうちにショックを受けるなり適応するなりして、お互い今後の長い人生を人として歩んでいくほうがいいんじゃないかって気がするからなんです。

ーーそれはそれでとても律儀ですよね。

姫乃:いいやつなんですよ、私(笑)。

ーーさっき言ったぬるま湯状態を少しずつ現実に戻すように導いているわけですよね。普通はそんなことまで考えないですよ。

姫乃:ファンからしてみても、普段まともに仕事して生きてるわけだし、現場は娯楽として楽しんでるだけだから、別にそこまで思わなくていいよって言われたらそれまでなんですけどね。とは言え、勝手に責任は感じますね……。卒業した先に私のやりたいことがあればいいんですけど、相変わらずやりたいことがないので、導いてあげられる先をまだ具体的に提示できないのがまたなんとも……。

ーーそれは地下アイドルを辞めたあとに見えていくんじゃないですか? それこそ、この10年間で試行錯誤してきたように。

姫乃:そうですねえ。人生は螺旋状に巡り巡って、悩んでも悩まなくても進化しちゃうんですよね。次のアルバムをリリースするビクターエンターテインメントも父親がメジャーデビューしたレコード会社だし、今やっていることって人生の最初と繋がって円状になっていると思うんです。私、時間を螺旋で想像していて、違うところに見える同じようなところを反復しているんだけど、実は先に進みながら上に上がっているっていう意識がすごくあって。だから、今後も試行錯誤しながら行ったり来たり成長していくんだろうなという意識はあります。

ーーその考え方はよくわかります。過去にやってきたことは意味があったんだなって繋がる瞬間ってありますよね。学生の頃に妄走族が好きだった姫乃さんがヒップホップのサークルのなかに入っていくことになったり。

姫乃:ダースレイダーさんとインターFMでラジオやってるなんて知ったら昔の自分が倒れますよ(笑)。こないだメジャーデビューの発表をしたときもイベントのBGMは妄走族でした。人はなかなか変わらない……。

ーーと考えると、あの時にした決断があとになってよかったなと思うことがくると思うんですよね。

姫乃:なんとなく選んだ芸名の“たま”が円形を示す言葉なのも、“魂”という全部を保有している名前なのも、意味はあるんだろうなと思います。この話をしていると、だんだんスピってきますね……。

ーーそういえば一時期コラムでスピリチュアル寄りのことを書いていた時期もありましたよね。

姫乃:あー、1~2年前くらいですよね。私、実は短気で、常になにかに反発されていたり、反発している状態がわりと好きなんですよ。それを隠すために、普段はふわっとした感じで生きているんですけど、内面的には強いタイプなので、渋谷WWWでのワンマンライブが成功したときにイヤな気持ちになっちゃったんですよね。

ーーイヤな気持ちというと?

姫乃:もっとうまくいかない予定だったんです。高みを目指して頑張ったけどうまくいかなくて、でもその頑張りに対して価値を見出すみたいなことを想定していたんですけど、周りの人たちが技術的にも精神的にも優れていて、普通にうまくいってしまったんです。その瞬間、姫乃たまに飽きてしまったというか。そのときに私を救ったのが石丸元章さんとスピリチュアルだったんですよ。

ーー振れ幅が極端!

姫乃:石丸元章さんって覚せい剤を使って、通常の自分とは異なる状態の脳内を旅しながら文章を残されているじゃないですか。スピリチュアルも、自分の中にいくらでも可能性を想像して遊べる。ケロッピー前田さんと大島托さんの「JOMON TRIBE」も、縄文時代にタトゥーはあったのか考えながら模様を刻んでいく。とにかく、いまここに生きる自分から離れたものに興味があったんです。本当にすごい人がいるっていうのもわかったんですけど、そうではない人もいるので、もういいかな。もともとスピリチュアル嫌いなので、偽物の人に会うと嫌悪感がすごくて……。でも、私が今日話しているファンとの関係はアセンションでは……。

ーーそろそろ終わりの時間ですね。姫乃さんの今後を楽しみにしています。

姫乃:まずは4月30日の卒業ワンマンライブですね。これからも螺旋状にクルクルしながら上がっていきたいと思います。アセンションしましょう。

(南波一海)

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