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いま、最高の一本に出会える

佐藤健演じる章は現代を生きる私たちの姿だ 『義母と娘のブルース』が描く仕事との向き合い方

リアルサウンド

18/9/5(水) 14:20

「章、これ本当にうまいと思って作ってるのか? これ食ってほしいと思って作ってるか?」

参考:綾瀬はるかと佐藤健の物語はどう築かれていく? 『義母と娘のブルース』第1章から第2章へ

 ああ、パンが食べたい……きっと多くの視聴者にとって胃袋を刺激される飯テロ回となった『義母と娘のブルース』(TBS系)第8話。これまで良一(竹野内豊)とのギソウケッコンから本物の夫婦愛を見つけ出し、血の繋がらない娘・みゆき(上白石萌歌)との揺るぎない親子愛を築いてきた亜希子(綾瀬はるか)が、次に導き出したのは本質的な仕事の面白さだった。それこそ元キャリアウーマンの亜希子が、みゆきに親の背中を伝えたいと思っていたこと。そして、ベーカリー麦田の店長・章(佐藤健)がくすぶっていた理由だった。

 自称“ナチュラルボーングッドルッキング愛されガイ”の章は、その見た目の良さから女の子に不自由をしたことがないし、調子の良さから転々としながらも仕事にはありつけていた。生まれてから一度たりとも、どうしようもないほどの枯渇を経験したことのない若者。章は、物も情報も溢れている飽和社会を生きる私たちを投影したような存在だ。

 亜希子が住む街にもパン屋さんはいくつもある。ネットを使えば、遠方のパンだって買うことが可能な時代。可もなく不可もないフツウのパンでは、印象に残らず埋もれてしまうのだ。父(宇梶剛士)と同じことをしているつもりでも、それは、現状維持という名の退化のはじまり。なぜなら、同じ物を作り続けても、人は飽きてしまうから。食べる人も、そして作る人も。しかし、人は過ぎ去ったものほど美化したがる生きものだ。思い出の味はどんどん脳内で甘美な香りを放ち、後を追う形になった次の世代にとって決して超えられないコンプレックスとなる。

 先代のパンの味を再現しようと思った亜希子に「ウケないと思う。なんか説教くさい」と言ったみゆきの感覚こそ、次世代の切り拓く原動力だ。先代の成功をそのまま飲み込み「これがセオリーだ」「ウケるものを作れ」と、手堅くリスクの少ない道を選ぶことは、現実の社会でもよく見かける風景。先代の姿勢に学ぶのと、やり方をそのままコピーすることは全くの別物だ。亜希子が、みゆきの本当のママの真似をしようとして、失敗したのと同じように……。

 「麦田さんにはないんですか? どういう店にしたいとか。麦田さんの店なのに?」大樹(井之脇海)が聞いたこの質問は、そのまま店=人生に変換できる。先代が成し遂げた成功の再来を追い求め、自分の成功体験をつめずにいる限り、仕事を面白いと思える日はこないだろう。自分がしたいことは何か、どう生きるのか。その問いは、視聴者である私たちにも向けられているような気がした。

 多くの物で満ち足りてる時代における最大の価値は、作り手自身のモチベーションだ。「自分がいいと思うものはこれだ!」と発信するポジティブなエネルギーこそ、その商品を選ぶ理由=オリジナリティになる。奇しくも、このドラマの原作漫画を描いた桜沢鈴も、長年語られてきた「時間は進まない」「キャラの内面的成長はない」「人が死ぬのはダメ」という4コマ漫画のセオリーから勇気を持って1歩踏み出し、自分の描きたいように描いた。だからこそ、『義母と娘のブルース』は多くの人の心を打つ作品となったのだ。

 世界一のパンを作ることも、世界一のママになることも、世界一の漫画を描くことも……きっと大事なのは自分のいいと思うものを信じる強さと、喜んでほしい相手を想う気持ち。それをすり合わせ続けることこそが、新しい価値を生む小さな奇跡の連続になる。

 「俺、角食の耳キライなんすよ。耳までうまい角食が食べたいって、ずっと思ってて。俺の作る角食ってそんなんでもいいんすかね。そんな感じで作ってみちゃったりしてもいいんすかね」。章も、気づかなかっただけで、“もっとこうなればいいのに”という気づきはそこにあったのだ。

 仕事はしんどいけど、しんどいことが楽しくなる瞬間がある。そのヒントは、なんでもブレストできる風通しの良さ、気になったら現場を調査するフットワークの軽さ、そして違うと思ったらすぐに路線変更する柔軟さ。今あるセオリーだって、最初は誰かの挑戦だったはずなのだから。そんなふうにして多くの人が、自分の仕事に小さな奇跡を起こし続け、日々を楽しむことができたら……今よりももっとワクワクせずにはいられない、宝探しのような未来がやってくるはずだ。それを作るのは、他でもなく今を生きる私たち自身。そんな希望を感じさせてくれるドラマも、いよいよ最終章。原作漫画のエンディングの通りになるのか、それとも……何が起こるかわからない、だからチェックせずにはいられない。いいお店も、いいドラマも同じのようだ。(佐藤結衣)

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