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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

撮影:御堂義乘

『毛皮のマリー』に美輪明宏が込めた寺山修司への思い

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19/4/2(火) 0:00

『愛の讃歌』『黒蜥蜴』など多くの名作をレパートリーにもつ美輪明宏にとっても、『毛皮のマリー』は特別な作品だ。1967年に寺山修司が美輪を主人公に想定して書き下ろし、初演された作品であること。その舞台を観た三島由紀夫から、『黒蜥蜴』へのオファーが届いたこと。1983年の上演にあたり、美輪と寺山は久しぶりに再会するが、その稽古中に寺山が帰らぬ人となったこと……。なにより、男娼マリーを巡る耽美やロマンだけでなく、“エロ・グロ”もいっしょくたに描いてなお、母性や家族といった普遍的なテーマを浮き彫りに出来るのは、寺山と美輪の幸せな邂逅があったからこそだ。

稽古中の美輪を訪ねた。物語は豪奢なマリーの部屋だけで展開。稽古場には、ビザンティン柄のバスタブやアール・ヌーヴォー風の調度品、中世風の意匠が珍しい椅子などがところ狭しと置かれていた。

稽古はちょうど、“醜女のマリー”(麿赤兒)が妄想のなかで美女たちを呼びだすシーン。といっても、“美女”たちは全員、男だ。本番では全裸に近い俳優たちがラインダンスを見せ、その妄想もうたかたのように消えた後、 “醜女のマリー” は肩を落として去る。舞踏家ならではの端然とした肉体をもつ麿が、老いさらばえた彼女を演じるのが絶妙だ。

稽古は次に、美輪演じるマリーと、オーディションで選ばれた三宅克幸が扮する“名もない水夫”のシーン。バスタブでの睦事から、会話はいつしかマリーの身の上話へ。耳をふさぎたくなるようなマリーの過去が、美輪のセリフでまざまざと浮かび上がる。稽古はその後も緊張感を保ったまま、マリーの養子・欣也(藤堂日向)と美少女・紋白(深沢敦)との場面、さらにマリーと欣也のラストシーンへと続いた。

今回注目されているのは、ともにオーディションで選ばれた欣也役の藤堂と、“名もない水夫”役の三宅だ。欣也役はこれまで大人の俳優が、また“水夫”役は筋骨隆々の俳優が演じることが多かったが、藤堂は23歳ながら可憐ともいえる容姿で、三宅は小顔でスラリとした長身。稽古を終えたばかりの美輪に選んだ理由を問うと、「(藤堂は)今どき貴重なエクボだったから」、「(三宅は)キックボクシングをやっていて、スポーツマンの身体つきだから」と茶目っけたっぷりに回答。「もちろん、芝居のカンや声も良かった。あとは、一番後ろの席まで届くような“見せ方”を教えていければ」と続ける。

「たとえば、“登場”と“出場”は違います。“登場”は、役者が出たとたん花吹雪が客席にまで舞うような感覚を起こさせること、“出場”は、単に舞台上に出たということです。せっかく一緒に芝居をするんですから、彼らがよそに行っても通用するやり方というのを伝えたいですね」と美輪は話す。

初演から52年。再演が繰り返されてきた『毛皮~』だが、いま改めて上演を決めた理由を聞くと、「天才・寺山修司の“財産”をどんな形でもいいから残していきたい、あれだけの人を忘れないでほしいという気持ちがある」と、すぐに答えが返ってきた。

「作品的なことをいえば、近年は“使ったら大変なことになる言葉”が多すぎるでしょう。淫猥なことやセックスに関することは、人前では話しちゃいけないという風になっている。寺山さんは、“じゃあ、その結果生まれたあなたたちは、背徳的な存在なんですかと言いたい”とおっしゃっていた。劇中に、ほぼ全裸のラインダンスや性行為が描かれているのは、その表れです」。

「一方で、『毛皮~』には、優しさや美しさもある。今はアナログなものが排斥されていって、母親が子どもに読み聞かせするときのような、人肌のぬくもりや吐息といったものが、どんどん消えている時代。最近は凶悪な犯罪も多くて、年配者も子どもも怯えながら暮らしているでしょう。さらに(芸能には)能や狂言、歌舞伎があって、戦前にアバンギャルドなものが花開いたのに、戦時中は軍人によって潰されて。また戦後になってようやく素晴らしい音楽や舞台が復活してきた流れがあったのに、最近はリズムやラップばかりが目立って、美しい“メロディ”が少なくなってしまった。そういうときこそ、こういう『毛皮~』のような舞台が必要だと思いますし、上演することで警鐘を鳴らしたいんです」と、美輪はその胸中を話してくれた。

「寺山さんを知らない若い人も、実際に『毛皮~』を観たら、ビックリして、でも惹かれたと言う方も多いんですよ」と微笑む美輪。「だから(寺山を)ただのアングラみたいに扱うのは違うんじゃないかと。そうさせないために、詩でも俳句でも短歌でも、それこそ競馬でも、彼の残した“財産”を誰かが残していかなくては。『毛皮~』の上演は、だから私の役目だと感じています」と美輪は語る。“寛容さ”を失くしていくばかりの日本。寺山が放つアンチテーゼは、本作を通してますます存在感を増すに違いない。

新国立劇場 中劇場にて4月2日(火)から21日(日)まで上演した後、福岡、名古屋、大阪で公演を行う。

取材・文:佐藤さくら

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