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『イングランド・イズ・マイン』マーク・ギル監督が語る、ザ・スミスへの思いと芸術家としての姿勢

リアルサウンド

19/6/4(火) 14:00

 マーク・ギル監督の長編デビュー作となる『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』が全国公開中だ。本作は、1980年代、イギリスのミュージックシーンを席巻した伝説のバンド、ザ・スミスのボーカリスト、スティーヴン・モリッシーが、若き日の苦悩と挫折を乗り越え、ミュージシャンとして生きる決意を描いた青春音楽映画となっている。

参考:場面写真、他カットはこちらから

 今回リアルサウンド映画部では、90年代にはミュージシャンとして世界中をツアーでまわり、短編映画ではアカデミー賞ノミネートも果たすという異色のキャリアを持つギル監督にインタビュー。日本の写真家からの影響、主人公となるスティーブン・モリッシーを演じたジャック・ロウデンやザ・スミスへの思いについても話を聞いた。

ーー日本はいかがですか?

マーク・ギル(以下、ギル):好きな日本のブランドがたくさんあるから色々買ったよ。BEAMSやTROVEに東急ハンズ、ニトリにも行った。代々木公園ではロカビリーダンスをやっている人たちもいたね。

ーーInstagramで来日の様子を拝見しました。スマートフォンで撮影したとは思えないカメラワークでした。

ギル:ありがとう。日本の写真家にもすごく影響を受けている。

ーー好きな日本の写真家は?

ギル:深瀬昌久に森山大道、山元彩香……たくさんいるね。映画監督にしてもフォトグラファーにしても、イギリスよりも、アメリカや日本の映像作家に影響を受けている。僕はポール・トーマス・アンダーソンの大ファンなんだ。他にもスピルバーグの初期やロマン・ポランスキー、黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』『野良犬』『生きる』……どの監督や作品にも共通しているのが、構成がとてもシンプルということ。『イングランド・イズ・マイン』も監督の存在をこれ見よがしに出すような作品ではなく、シンプルに撮ることを心がけた。

ーー『イングランド・イズ・マイン』はカメラワークも印象的でした。

ギル:撮影監督をやっているニコラス・D・ノラウンドは75歳で、68年のザ・ローリング・ストーンズのハイドパーク公演や、77年のセックス・ピストルズの撮影もしていたんだ。僕が最初に彼の仕事を知ったのは、ピーター・ストリックランドの『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』『The Duke of Burgundy』(原題)の2本の映画だ。カメラワークが気になって、どんな若造が撮ったんだろうと思ったら、僕の親父より年上でびっくりしたよ(笑)。

ーーギル監督は90年代後半には、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーのベーシストであるピーター・フックのバンド・モナコで活動するなど音楽のキャリアも長いです。元々映画や写真に興味があったんですか?

ギル:初恋をしたのは音楽だけど、その間にも写真を撮ったりグラフィックデザインだったり、何かしらクリエイティブな仕事はしていた。だからいつか作品を撮りたいという思いは昔からあったね。最後に組んでいたバンドではユニバーサルと契約して、ツアーに出ている間も8mmフィルムでその様子を撮ったりしていた。だけど、ある日「いまいちバンドにノレない」という自覚が出てきて、そろそろ映画に転向しようと、持っていたギターを全部売って、映画学校の学費に充てたんだ。

ーー『イングランド・イズ・マイン』はモリッシーがモチーフの映画ですが、監督ご自身のそうしたプライベートな部分も反映されていますか?

ギル:ノウランドには「これは君の物語だよね」とよく言われていた通り、自分の要素は多分にこの映画に入っている。『イングランド・イズ・マイン』は、モリッシーの物語であると同時に、僕の物語であり、みんなの物語だと思う。モリッシーの歌詞はパーソナルだけど、誰しもが自分自身にあるものを投影していて、だからこそ普遍性を獲得した。そういう風に自分自身の内部にあるものから作品を作るべきだと思う。僕は、自分で脚本を書いて自分で撮りたい。ハリウッドでブロックバスター映画を撮ることは悪いこととは思わないけど、それはやりたくないんだ。

ーー本作は「ザ・スミスの伝記映画」ではなく、モリッシーがザ・スミスを結成する前までを描いています。そのことは意識的でしたか?

ギル:そうだね。僕はこの方向性でしか撮れないし、この方向性以外に興味がなかった。『ボヘミアン・ラプソディ』のような映画は撮りたくなかった(笑)。ジョニー・マー(ザ・スミスの元ギタリスト)がそれっぽいギターリフを弾いて、曲ができるみたいなシーンを撮影するのは、考えるだけで身の毛もよだつ思いだよ(笑)。
 アーティストが誕生するまでを描くことで、必然的にそこにはためらい、苦悩や複雑な事情、恐怖心が表現される。僕は、アーティストが自己表現をするためには失敗は欠かせないと思っている。今の若者が残念なのは、失敗というプロセスを経ていないこと。みんなの人気者になりたければInstagramがいいし、ポップスターになりたければ『Xファクター』に行けばいい。全てが即席なんだ。そういう流れにおいて、みんなから感じるのは、恥をかきたくない、失敗したくないということだ。マンチェスター大学で講師をやっていたこともあるんだけど、みんな発言や質問をしようとしない。恥をかきたくないということだと思うけど、僕は自分が知らないことは知りたいし、いちいち恥なんか感じている暇はない。失敗こそがモリッシーを形成をしていったと思う。

ーーモリッシーという実在の人物を描く上で気をつけたことはありますか?

ギル:ザ・スミスの初期のインタビューに出てくる幼少期や家族の話、モリッシーを分析する学術書や評論を参考にした。歌詞ももちろん読み込んだよ。映画にも登場している、モリッシーと最初にバンドを組んだビリー・ダフィーにアドバイザーとして参加してもらったりもした。

ーーモリッシー役にジャック・ロウデンを抜擢した理由は?

ギル:こんな才能を持った人はなかなかいないと思うくらい、印象的な俳優だったんだ。オーディションをやったんだけど、大体がモリッシーの真似事をやる中、ロウデンはそうしなかった俳優の1人だった。モリッシーを演じるのはすごくプレッシャーだったと思うけど、「僕は君の演技力を買ったんだから大丈夫」と励ましていたよ。

ーー本作では、ザ・スミスの楽曲は使われていませんが、ザ・スミスのルーツとも言える楽曲が多く用いられています。どのように楽曲を選んだのでしょうか?

ギル:色々リサーチしていて、Spotifyに100曲くらいリストアップもしたんだけど、最終的には感覚的に選んでいった。人がびっくりするような効果も入っていると思う。モリッシーがうつ状態の時には、一見似つかない「My Boy Lolipop」というガールズグループの朗らかな曲が流れてくるシーンがある。ガールズグループの楽曲ということは、母親のレコードコレクションを聞いているわけだ。辛い状況に陥った時、彼は子供帰りするんだろうなという想像をして選んだ。モリッシーの友人であるリンダがやってきた時、モリッシーが一人で踊って歌っているのは「Only Told That People」という曲なんだけど、モリッシーはこの曲のメロディーを引用した「Girl Least Likely To」という曲をリリースしている。だから、リンダが「あなたが歌っていたの?」とモリッシーに言うセリフは実はシャレなんだよ(笑)。

ーー監督にとってザ・スミスとはどんな音楽でしたか?

ギル:この映画を撮って以降、不思議とあまりザ・スミスを聴かなくなったんだ。ちょっとエモーショナルになりすぎるのかもしれない。ザ・スミスは僕の全てだと言えると思う。クリエイターとして自分が歩んできた道、積んできた経験も、ミュージシャンとしてツアーをしていろんな人と会うことができて、監督としてこうして東京に来れたのも、ザ・スミスのおかげだ。僕は、ザ・スミスの音楽から、人生に降りかかってくるものをそのまま受け入れなくていい、ということを自分へのメッセージとして受け取った。何よりもそのメッセージを体現したのがモリッシーだ。彼ほどポップスターになり得ない人物はいないと思う。だけど見事にそれをやってのけた。彼は、チャンスがやってきたら掴むということを訴えてきた人なんだ。

(取材・文・写真=島田怜於)

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