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ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、美波……J-POPシーンに台頭するネット発女性ボーカルの音楽

リアルサウンド

19/4/14(日) 8:00

 ここ最近、日本の女性ボーカルシーンに新しい波が訪れている。端的に例を示すなら、ヨルシカや美波、ずっと真夜中でいいのに。といったアーティストたちの台頭だ。彼女たちはYouTube上で自作曲を発表し、その多くはアニメの映像を当てている。特筆すべきは、それらの再生回数が軒並み数百万回を超えている点だ。彼女たちは大々的にメディアに露出しているわけではない。にも関わらず、その存在感はネット上で日に日に増していく一方である。音楽性はさまざまだが、基本にあるのはエモやオルタナといった方向性のロック。しかし、既存のバンドシーンに溶け込むことなくSNSを中心に独自の地位を築きつつある。彼女たちがここまで人気を博している理由はいったいなぜか、そして彼女たちの登場が音楽シーンに与える影響とは何か、それぞれの特徴を分析して探ってみたい。

(関連:ずっと真夜中でいいのに。の音楽は、これから想像を超える速さで広がっていく 1stライブレポート

■確かな作曲力と演奏力を見せるずっと真夜中でいいのに。

 昨年6月にYouTubeに投稿した「秒針を噛む」が話題を集め、記事執筆時点で再生回数は1,900万回越え。ボーカル兼フロントマンのACAねが作詞作曲を担当し、アレンジャーに外部のクリエイターを迎えることで幅広い音楽性を見せている。

 〈生活の偽造〉〈偽りの気持ち合算して〉〈灰に潜り〉など歌詞に独特の言葉遣いの光るこの曲。そもそもアーティスト名にも新しい感性があるが、言葉を伝えるための確かな作曲力も見逃せない。サビ冒頭での畳み掛けるメロディと絞り出すように地声で力強く叫ぶ歌声は思春期ならではの不安定さを、同じ箇所を何度もぐるぐるとするピアノのリフは少女の鬱屈とした感情を音にしたかのよう。

 ”脳裏上”と書いて”ノウリウエ”と読ませる感性(JASRACの作品データベースでは”ノウリジョウ”で登録されている)もさることながら、サビを2段階に分けてパンチ力を上げる先進的な楽曲構成が秀逸だ。前曲では”秒針を噛”み、今曲では日付の変わり目を連想させる”本初子午線”が〈絡まったまんま 解けない〉と歌うなど、”ずっと真夜中でいい”と掲げるこのバンドのテーマが貫かれている。

 打って変わって日本語ラップに挑戦した一曲。ピアノとワウギターにリズミカルなリリックが乗ることでインディーズ期のDAOKOを彷彿とさせるような孤独で陰鬱とした雰囲気を作り出しているが、サビ以降で広がりを見せるバンドアンサンブルに音楽性の深みを感じ取れる。

 作品にこうした奥行きをもたらしているのが、フロントマンであるACAねを中心として多くのクリエイターが集う特殊な形態に他ならない。ACAねのTwitterにはしばしば弾き語り動画がアップされる。そうした佇まいはある意味”ギタ女”的。しかし、実際の楽曲にはそれだけにとどまらない各楽器のハイレベルな演奏が施されていて、ファンからは”弾いてみた”系動画が投稿されるなど多様な反応を見せている。つまり、シンガーソングライター的でありながらバンド的でもあるという、両者の性質を併せ持っているユニットなのだ。確かな作曲力と演奏力、それこそが”ずとまよ”の魅力だろう。

■独創的な表現と歌唱力が武器の美波

 昨年6月に公開され瞬く間に話題となった「ライラック」は現在再生回数1,500万回を超える美波の代表曲。尾崎豊に影響を受けたという彼女は、度重なる体調不良による公演中止もむしろその後の推進力に変え、1月放送開始のテレビアニメ『ドメスティックな彼女』のオープニング主題歌「カワキヲアメク」でメジャーデビューした。その「カワキヲアメク」も近いうちに2,000万回に届こうとしている現在人気急上昇中の若手だ。

 どすの利いた声から泣きそうな声まで変幻自在の声色、ファルセットと地声を自在に行き来するテクニック、巻き舌気味に歌い上げる歌唱法など、一聴して彼女のボーカル技術に心を奪われる。歌詞には、周りの身勝手な意見に惑わされる主人公の、それでも自分のやりたい方向へ進んでいこうとする気持ちが自由な言語感覚で綴られている。だからこそ、目まぐるしく変化する多彩なボーカルも、要所要所で乱高下する複雑なメロディも、すべて〈身勝手解釈receiver〉からの声を振り払って突き進む彼女の強い意志の表れとして聴くことができる。楽曲の独創性が、自身の活動方針についてのある種の宣言のようになっているのだ。

 金切り声と歌声のあいだのような発声の仕方や、つぶやき、叫び、サビでアクセントとして何度も用いられる悲鳴のようなブレス……こうした繊細かつ力強いボーカル表現を巧みに使いこなす。〈コピー、ペースト、デリート〉、〈メール〉、〈引用〉、〈2文字以内〉など現代的な歌詞も同世代の心を掴む要素だろう。このように、既存のポップスの世界ではあまり見られないような歌詞の独創性と、心を揺さぶるエモーショナルなボーカルワークが彼女の武器だ。コメント欄には海外からの賞賛の言葉がずらり。彼女の才能に、いま世界が注目している。

■物語を楽曲とともに体験できるヨルシカ

 ヨルシカはもともとボカロPとして活動していたn-bunaと、ボーカルとして参加していたsuisによって結成された2人組ユニット。作詞作曲は全曲n-bunaが務める。2017年に公開された「言って。」は現在3,000万回以上再生され、今年4月10日には1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』を発売した。

 全編を通してピアノが印象的。音楽に対して投げやりになってしまった主人公の心情を、語りかけるような口調で表現した歌詞になっている。「言って。」では淡々とした女性ボーカルが乗っていたため初期の相対性理論を彷彿とさせる音楽性であったが、今作では感情を激しく出すような歌声を見せているため前述した2組のような荒々しさがある。アルバム『だから僕は音楽を辞めた』は、「音楽を辞めることになった青年が”エルマ”という女性へ向けて作った楽曲」というテーマのもと制作されている。そのため、物語をリスナーが楽曲とともに体験できるような作品に仕上がっている。そうしたコンセプチュアルな作風がヨルシカの特徴だ。

■重要なのは心を揺さぶる”楽曲の力”

 彼女たちの音楽には聴く者の心を揺さぶるパワーがある。そして、感情を曝け出したような言葉による生々しい歌詞が、疾走感あるバンドサウンドや映像表現によって引き立ち、想像力を掻き立てる。音楽を聴かせるというよりも、”音楽を見せる”ことで多くの視聴者にリーチしているようだ。amazarashiやEve、さユり、神様、僕は気づいてしまったのような近しい音楽性のアーティストと時を同じくしつつも、ここに挙げた3組はネット上にアップした作品そのものが起爆剤となって人気が波及している印象がある。それは、一時期のBUMP OF CHICKENのフラッシュ動画ムーブメントにも似た現象だ。あの時のように、既存の音楽シーンの枠組みでは捕獲出来なかった若者たちの覆い隠された琴線に触れる何かを、彼女たちはいち早く掴み取っているように思える。

 また、こと女性ボーカルにおいては作家音楽の力が根強い音楽業界で彼女たちの台頭はそれ自体がカウンター的だ。今までの商業音楽にはなかったような表現や、多彩な感情の込め方、ネットを主戦場とした活動スタイルなどは、アーティストの自己表現の新しい形を提示しているとも言えるだろう。そして、女性ミュージシャンというと往々にして作品そのものよりも容姿やアイコン性が求められがちだが、彼女たちは顔を隠し、自分たちの言葉を歌にしている。彼女たちが人気を拡大している背景から、世の中に働いている力学の反動として捉えることも可能だ。それによって純粋に作品が評価され、その先に作者のパーソナリティが支持される流れができている。彼女たちの登場以降、ネット上の音楽シーンはさらに”楽曲の力”が要求されるかもしれない。(荻原 梓)

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