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『ボヘミアン・ラプソディ』爆発的ヒット! 勝因は「クイーン中心史観」と「イベントムービー化」

リアルサウンド

18/11/15(木) 13:00

 11月9日金曜日に公開された『ボヘミアン・ラプソディ』が圧巻のスタートをきった。土日2日間に動員24万5000人、興収3億5400万円をあげて週末の動員ランキングで初登場1位。初日からの3日間累計では動員33万8000人、興収4億8700万円。この数字は、興収53億円を記録した今年公開の『グレイテスト・ショーマン』の同期間での興収比で約96%、興収44.2億円を記録した2017年公開の『ラ・ラ・ランド』の同期間での興収比で約86%、興収58.9億円を記録した2012年公開の『レ・ミゼラブル』の同期間での興収比で約129%。ウィークデイに入ってからは2位『ヴェノム』以下の作品をさらに大きく引き離していて、興収40億円超えの大ヒットも十分に期待できる最高の出足となっている。

参考:『ヴェノム』大ヒットスタート! 「日本で当たるアメコミ映画」と「日本でコケるアメコミ映画」

 本稿では便宜上、『グレイテスト・ショーマン』『ラ・ラ・ランド』『レ・ミゼラブル』といった過去のミュージカル映画を比較として挙げたが、クイーンを結成した以降のフロントマン、フレディ・マーキュリーの半生を描いた本作『ボヘミアン・ラプソディ』はミュージカル作品ではなく、実在のロックバンドのメンバーや関係者をすべて役者が演じて、基本的にその史実に沿って(一部ストーリーをよりドラマティックにするためか時系列に改変はあるが)描いた伝記映画である。このタイプの作品は、権利元(題材となるミュージシャンやバンド。主人公が他界している場合はその遺族や残されたメンバーなど)の協力を得られずにオリジナル音源が使用できないと、作品の出来不出来以前の問題として、観客不在の悲惨な結果に終わりがち。今回の『ボヘミアン・ラプソディ』はフレディの遺族やメンバーからしっかり全面協力を得ているが、過去の類作、オリバー・ストーン監督の『ドアーズ』(1991年)、ビル・ポーラッド監督の『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015年。題材はブライアン・ウィルソンとビーチ・ボーイズ)などのオリジナル音源を使用していた作品と比べても、比較にならないほど大きな規模での成功を世界中で収めている。

 本作が大ヒットした前提には、クイーンというバンドとその音楽の根強い人気と幅広い吸引力があるわけだが、例えばビートルズやローリング・ストーンズやザ・フー、あるいは音楽ジャーナリズム的にはクイーン以上の評価を得てきたピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンといった英国のレジェンド・バンドを題材にした伝記映画が実現したとしても、これ以上の結果が出るとは到底思えない。また、本作の重要なポイントの一つは、フレディ・マーキュリーの人物像を描く際には避けて通れない「人種的マイノリティ」「性的マイノリティ」といったテーマにもしっかりと向き合っていることだが、それらが本作の持つ「2018年の映画」としての必然性に寄与しているのは間違いないものの、必ずしもヒットの最大要因ではないだろう。

 本作『ボヘミアン・ラプソディ』では、先に挙げたような同時代の他のバンドの名前は出てくるし、街の風景やスタジオの設備や衣装などの時代考証こそしっかりされているものの、その当時の音楽シーンの描写は最小限。バンドが結成された70年代前半から作品のクライマックスとなる「ライヴ・エイド」が開催された1985年まで、ロック史的にはある意味で傍流に位置してきたクイーンだが、本作はあくまでも「クイーン中心史観」に基づいて作劇されている。それによって、史実に基づいた伝記映画でありながらも、寓話性、神話性を持った作品に昇華されているのだ。本作のタイトルはロックにオペラの様式を大胆に導入したクイーンの代表曲からとられたものだが、それは単に彼らの最も有名な曲の一つであるから、あるいはその制作からリリースにいたるまでのエピソードが作品の中盤でたっぷり描かれているからだけでなく、本作全体がある種のオペラ的なトーン&マナーでドラマティックにまとめあげられていることを示している。

 その上で、本作のラストを飾る約21分間に及ぶ「ライヴ・エイド」のステージを「作品の見所」として明確に設定し、本作をロックバンドの単なる伝記映画ではなく、過去に大ヒットしたミュージカル映画に連なるようなイベントムービーとして宣伝したその方法論も見事だ(本国からの指示なのか、日本独自の方針なのかはわからないが)。もともと、日本はクイーンがブレイクするきっかけとなった国で、作中でその裏話も描かれてはいるものの、日本ロケを敢行しているわけではないのでその描写自体はかなり肩透かしなものに終わっている。しかし、それを補って余りある全体の満足感。作品の仕上がりからすれば納得の大ヒットだが、必ずしもそういう作品がヒットするとは限らないわけで、今回はすべての歯車がぴったりと合った会心の結果となった。(宇野維正)

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