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米セレブを取り巻くボディイメージ問題 『アイ・フィール・プリティ!』が描いた“2つの苦しみ”

リアルサウンド

19/1/9(水) 10:00

 プロフィールでは写真が重要、それが良くないとライクもシェアもされないーーこれは映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』の主人公レネーが提唱する意見だ。女性は細くて美しくないと価値が認められない、それが彼女の持論なのである。反して、この主張と対極にある存在が、レネーを演じるエイミー・シューマー、および吹替担当の渡辺直美その人だろう。

 日米を代表するコメディアンであるシューマーと渡辺には共通点がある。まず、2人ともショービズ界における標準を上回るとされる(シューマーが言うには63kg以上の)体型でありながらトップに登りつめた女性スターだ。「多様な体型の肯定」を啓蒙するボディ・ポジティブ・アイコンの側面も強い彼女たちは、体型へのバッシング、いわゆるボディ・シェイミングに立ち向かうことも多い。例えば、渡辺の場合、GUCCIのInstagramに掲載された際に発生した体型バッシングに毅然と対応し「私の魅力はまだ2%しか出してない」と言ってみせた。一方、シューマーにも似たエピソードがある。あるデザイナーから水着姿を「豚」と侮辱された際、さらなる水着写真をアップして「私はいい気分」と反撃に出たのだ。また、好戦的な芸風を得意とするコメディアンとして、大袈裟に喝采してくるメディアへの揶揄も忘れない。

 「トップレスでコーヒーを持つ写真をアップしたの。そしたらメディアがあちこちで大騒ぎ! そして書かれてた、一番言われたくない言葉を……『ヌードだなんて、彼女はなんて“勇敢”なんだ!』」(Netflix『エイミー・シューマーのレザー製ですが何か?』より)

 『アイ・フィール・プリティ!』は、ボディ・ポジティブ・アイコンであるシューマーと渡辺にぴったりな映画だ。主人公レネーは容姿コンプレックスを抱える自尊心の低い女性だったが、転倒事故に見舞われたことで「細身のセクシー美女に変身した」と思い込むハプニングが発生。瞬く間に自信たっぷりになったレネーは様々なチャレンジに挑み始め、仕事でも恋愛でも成功を掴んでいく。他人の目にうつる彼女は以前と変わらないため皮肉なサクセス・ストーリーだが、もちろん、これだけでは終わらない。自らを美人と認識したレネーは、元々持っていた「女性の価値は容姿」という価値観に傾倒していき、大切な友人を失っていく。明るいコメディながら示唆に富む物語ではないだろうか。容姿問題で悩み続けていた主人公は、そのコンプレックスを払拭して自信を手に入れたからこそ大切な人を失い、果てには自分自身を貶めていくのである。彼女は一体なにを克服すべきだったのだろうか? その正体とは、エイミー・シューマー、および渡辺直美が日々闘っているものと同じなのではないだろうか。

 『アイ・フィール・プリティ!』は「女性の価値は容姿」とする抑圧やボディイメージの問題を扱う映画だ。ここで特筆すべき点は、2018年に公開されたこのアメリカ映画が「美人とされる女性たち」の苦悩も描いていることだろう。本作における「美人」な女性キャラクタは、ミシェル・ウィリアムズ演じる高級化粧品企業の社長エイヴリー、エミリー・ラタコウスキー演じるモデルのマロリーだ。容姿コンプレックスを持つレネーからしたら完全無欠の存在なわけだが、本人たちからしたらそうではない。エイヴリーもマロリーも「頭が悪い」と思われることに悩み、自信を喪失しているのだ。劇中、レネーは「セクシーな女こそ男にモテる、パーソナリティなんて誰も気にしない」と主張していたが、その思想の裏側には、マロリーたちを傷つけた「美しくかわいい女性は頭がからっぽ」という偏見が潜んでいたのかもしれない。「女性の価値は容姿」とする向きの強い社会において、見た目に自信のない主人公は大きなコンプレックスを抱えるが、一方で美しいとされる者たちも別の女性蔑視に苦しめられているのだ。

 美しいとされる女性たちも性差別に悩んでいるーーこのことは、近年アメリカのセレブリティが進んで発信している事柄だ。例えば、劇中「美人の象徴」として挙げられる人気セレブリティであるジジ・ハディッドとセレーナ・ゴメスにしても、激しい体型バッシングに遭った経験を告白しており、ボディ・シェイミングの問題性を啓蒙し続けている。マロリーを演じたエミリー・ラタコウスキーもそうした活動で有名だ。ボディイメージや政治の問題について度々語ってきた彼女は、自分のことを「セクシー“だけど”政治に詳しい」と紹介するメディアは性差別的だと苦言したこともある。映画で描かれたマロリーの苦悩は、演者自身の経験でもあるのだ。さらに、ラタコウスキーは、エイミー・シューマーと似た経験を持っている。2人とも、ハリウッドにおいて体型を理由に「役はない」と言われ続けてきた女優なのだ。ラタコウスキーは「セクシーすぎて」、シューマーは「痩せないと目障りだから」役は与えられないと言われ続けてきたと明かしている。

 2018年のアメリカでは、それこそエイミー・シューマーからエミリー・ラタコウスキーまで、様々な女性セレブリティが性差別やボディイメージ問題について発信している。そんな中、一般的に理想的容姿とされる女性とそうでない女性、その両方の苦しみを提示した『アイ・フィール・プリティ!』は、ラブコメディの定番でありつつ時勢を反映したポップカルチャーとも言える。女性同士の対立や分断を避け、依然としてはびこる性差別や抑圧を「みんなの問題」と捉えることで個々人を肯定しようとするその姿勢はポスト#TimesUp的と言えるかもしれない。「マッチョな男らしさ」に馴染めない男性が描かれる点もポイントだろう。映画のハイライトとなる主人公のスピーチは、女性たちはもちろん、観客全員に向けられているのではないだろうか。(文=辰巳JUNK)

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