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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

Amaranthe、Chthonic、LOVEBITES……“男社会”で格闘するメタル/ラウド系女性アーティスト

リアルサウンド

18/11/25(日) 18:00

 エクストリームミュージック、特にハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)の世界は男性を主軸に回っている印象が強いのではないでしょうか。いまだに前時代的な男尊女卑をテーマに歌うバンドも存在するのも事実です。しかし、現在のシーンに目を向けると、女性メンバーを擁するバンドも少なくないし、女性だけで活躍するHR/HMバンドも80〜90年代と比べればかなり増えています。

 このキュレーション連載でも、ほぼ毎回女性メンバーを含むバンドの新譜をピックアップしており、すでに「女性だから/女性がいるから」といった要素は特異性には値しない、ごく当たり前のこととなっています。

 筆者はこの夏、ムック『ヘドバン Vol.19』にてHalestormのリジー・ヘイル(Vo)のインタビューをお手伝いする機会を得たのですが、そこで彼女は「現在のHR/HMシーンにおける女性の地位や存在感についてどう思うか?」という問いに対し、「明らかに状況は良くなってきていると思う。私たちは2005年くらいからコンスタントにツアーをするようになったのだけど、あの頃はツアー中、たいてい女性は私だけで、自分が女性だっていうことを忘れてしまうこともあったわ。ところが最近出演したフェスティバルや、この特別なツアー(Halestorm、In This Moment、New Years Day、Stitched Up Heartといった女性がフロントを務めるバンドによるツアー)においては、女性というのはマイノリティーですらなかった」と述べています。リジーの言葉からは、この10年ほどで女性メンバーを擁するバンドは確実に増え、地位を確立したことが伺えます。

Halestorm – Do Not Disturb [Official Video]

 個人的には「女性だから/女性がいるから」という点で区別するのは好まないのですが、今回の連載では直近タイミングに素晴らしい“女性メンバー/女性シンガーが所属するバンドの新譜”が多かったことから、こういったテーマで“今、聴くべき新作”を紹介していきたいと思います。

 まずは、スウェーデンのメロディックメタルバンドAmarantheの5thアルバム『Helix』から。彼らは男女3人のシンガーを含む特殊な編成のバンドで、北欧では2011年のメジャーデビュー以降絶大な人気を誇ります。

 このニューアルバムから、新たに同郷のハードロックバンドDynaztyのニルス・モーリン(Vo)が参加。北欧のバンドらしいヘヴィかつメロディアスなスタイルに、今ドキのバンドならではのエレクトロやダンスミュージックの要素を味付けとして加えたモダンな楽曲はさらに磨きがかかり、紅一点のエリーゼ・リード(Vo)の艶やかな歌声を際立たせることに成功しています。

Amaranthe – Countdown

 オランダのシンフォニックメタルバンドWithin Temptationは、5年ぶりの新作『Resist』をリリース。キャリアとしてはすでに20年以上と大御所の域に達しつつある彼らですが、この新作に到達するまでにはインスピレーションの枯渇など解散の危機に瀕するなど、決して順風満帆ではありませんでした。

 しかし、こういった苦難を乗り越え完成させた7枚目のアルバムは、現代的なモダンポップと彼ららしいシンフォニックな要素、そして荒々しいヘヴィロックが混在する攻めの1枚となっています。シャロン・デン・アデル(Vo)の伸びやかなボーカルはここでも健在で、Papa Roachのジャコビー・シャディックス(Vo)、In Flamesのアンダース・フリーデン(Vo)といった男性ゲストシンガーをフィーチャーすることで、シャロンの個性がより強く打ち出されているように感じます。

(追記: Within Temptationのニューアルバム『Resist』の発売日が、当初予定していた12月14日から2019年2月1日に延期となりました。)

Within Temptation – The Reckoning feat. Jacoby Shaddix (Official Music Video)

 スイス出身の女性5人組メタルバンド、Burning Witchesは12月19日に2ndアルバム『Hexenhammer』を日本リリースします。彼女たちはドイツの伝説的スラッシュメタルバンドDestructionのシュミーア(Vo/Ba)のバックアップのもと、2017年にアルバム『Burning Witches』でデビュー。オールドスクールの正統派パワーメタルはヨーロッパ圏で好意的に受け入れられました。

 続く今作『Hexenhammer』でもそのスタイルは健在で、王道パワーメタルからスラッシュメタル風の楽曲、重厚感のあるミドルナンバー、さらにはDioのカバー「Holy Diver」まで“これぞヘヴィメタル!”と叫びたくなるほどド直球のメタルを聴かせてくれます。

BURNING WITCHES – ‘Hexenhammer’ (OFFICIAL VIDEO)

 ここからは新人バンドを2組紹介します。

 1組目は歌姫ナスターシャ・ジュリア(Vo)を擁するドイツの5人組バンド、Enemy Inside。彼らは今年2月にライブデビューを飾ったばかりの新人で、11月21日に日本発売となるアルバム『Phoenix』はまさにデビューアルバムとなります。

 その内容は新人とは思えないほど高い完成度を誇り、Evanescence以降のモダンメタルを踏襲したゴシック/メロディアスヘヴィロックを堪能することができます。また、パワフルさと繊細さを巧みに操るナスターシャのボーカルからも新人離れした安定感が伝わり、早くライブを観たい! と思わせてくれる1枚です。

ENEMY INSIDE – “Lullaby” (Official Video)

 もう1組は、日本人ならそのバンド名にドキッとしてしまうかもしれない、男女4人組バンドAzusa。昨年解散したUSエクストリームロックバンドThe Dillinger Escape Planのリアム・ウィルソン(Ba)と、ノルウェーのテクニカルデスメタルバンドExtolのクリスター・エスペヴォル(Gt)&デヴィッド・フスヴィック(Dr)が中心となり結成され、そこに紅一点のエレーニ・ザフィリアドウ(Vo/Piano)が加わり現在の編成となります。

 日本先行リリースされたばかりの1stアルバム『Heavy Yoke』はThe Dillinger Escape PlanやExtolといったバンド名からもイメージできる、複雑怪奇でアヴァンギャルドなエクストリームミュージックが展開されていますが、そこに魅惑的なエレーニのボーカルが乗ることで唯一無二の世界観を確立させています。プレスリリースには「ケイト・ブッシュがボーカルのSlayer、もしくはアネット・ピーコックとDeathのコラボレーション」という例えが載っていましたが、それも頷ける独創的なヘヴィロックを堪能できるはずです。

Azusa – Interstellar Islands (Official Music Video)

 最後はアジア圏から世界に向けて孤軍奮闘するバンドの注目作を紹介します。

 1組目は台湾を代表するシンフォニックブラックメタルバンドChthonicの、5年ぶりの新作『政治=阿修羅の戦場 ~ BATTLEFIELDS OF ASURA』。ここ日本でも高い人気を誇り、『LOUD PARK』といったメタルフェスのみならず『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』への出演経験を持つ彼らですが、海外でも『Ozzfest』『Downlord Festival』『Wacken Open Air』など名だたる大型メタルフェスで名を馳せてきました。紅一点のドリス・イエ(Ba)はリーダーとしてこのバンドを牽引しつつ、女性権利団体を支持するほか、近年は女優として映画にも出演。フレディ・リム(Vo/二胡)は人権および社会正義の問題など、公共の事柄に積極的に活動し、現在は台湾国会議員として活躍しています。

 『政治=阿修羅の戦場』という邦題が付けられた本作は、今まさに彼の人生が直面している現状をユニークかつ的確に表現した内容で、政治というフィルターを通して人々の怒り、悲しみ、憎しみ、希望、愛といった感情を表現しています。台湾の民族楽器を多用したオリエンタルな要素も健在で、シンフォニックメタルサウンドと融合することでよりダイナミックな世界観を構築。また、Lamb Of Godのランディ・ブライス(Vo)やアジアの歌姫デニス・ホーといったゲストをフィーチャーすることで、アルバム全体に込められたエモーショナルさが増す結果となりました。来年2月には久しぶりの単独来日公演も予定されているので、本作の魅力をぜひ生で体感してもらいたいと思います。

閃靈CHTHONIC【天誅】 Flames upon the Weeping Winds – Official Video

 ここ日本にも忘れてはならないバンドが1組います。先頃、欧州最大規模のブッキング・エージェンシーX-ray Touringとの提携、そしてヨーロッパ圏での<Nuclear Blast / Arising Empire>との契約も発表されたLOVEBITESが、12月5日に2ndフルアルバム『CLOCKWORK IMMORTALITY』を日本先行リリースします(ヨーロッパでは12月7日発売)。アルバム発売に先駆けて、すでに11月からヨーロッパツアーを敢行中の彼女たちですが、ここ日本ではアルバムからのリードトラック「Rising」が先行配信され大反響を呼んだばかり。LOVEBITESらしいドラマチックでメロディアスなメタルサウンドが展開されるこの曲に、多くのファンが喜んだことでしょう。

 アルバム自体もその期待を裏切らない、想像以上の完成度で、バンドとしてより表現の幅を広げることに成功しています。従来の彼女たちらしいメロウでファストなパワーメタルはもちろんのこと、スラッシーなナンバーやダンサブルなハードロック、そして新境地と言えるブリティッシュロック調のブルージーなバラードなど、聴き応えは過去最高。asami(Vo)のシンガーとしての表現力、バンドアンサンブルも非常に冴え渡り、これが“世界”を通過したバンドが生み出すサウンドなのか……と驚かされるポイントの多い1枚となっています。完全生産限定盤には今年6月の単独公演の模様が完全収録されたBlu-ray/DVDが同梱されるので、まだライブを観たことがないリスナーにはこちらもオススメです。

LOVEBITES / Rising [MUSIC VIDEO (YouTube version)]

 最後は、そのLOVEBITES絡みの新作を。メインコンポーザーのひとりであり、またマルチプレイヤーとしてLOVEBITESに欠かせない存在のMIYAKO(Gt/Key)と、ソロやUROBOROSといったバンドで活躍する実力派シンガー上木彩矢によるユニット、SONIC LOVER RECKLESSが3曲入りCDと3曲のライブ映像を収めたDVDで構成された作品『THE PHOENIX』を12月19日にリリースします。

 音源自体は昨年10月にデジタル配信されていたものの、CD化はこれが初めて。どの曲もキャッチーでハードロライヴィングなハードロックサウンドに仕上げられており、安定感の強い上木のボーカルと卓越したMIYAKOのギターワークを存分に味わうことができます。LOVEBITESとはテイストこそ異なるものの、MIYAKOというアーティストの才能をLOVEBITESとは違った形で感じることができるはずです。

SONIC LOVER RECKLESS / PHOENIX

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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