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いま、最高の一本に出会える

仙頭武則が目指す、VRを用いた次なる映像体験 「原点へ帰ることが一番重要」

リアルサウンド

18/11/27(火) 12:00

 映画でもない、従来のVRアトラクションでもない、ましてやお化け屋敷でもないーーまったく新しい映像体験を味わえる作品『ダムド・タワー -ホスピタル サイト-』が現在、名古屋テレビ塔で12月24日まで開催している。作品の企画・プロデュース・総合演出を務めたのは、1990年代、諏訪敦彦、青山真治、河瀬直美ら新進気鋭の監督たちのプロデューサーとして、世界で高い評価を受ける作品を世に送り出した仙頭武則。『リング』『女優霊』でタッグを組んだ高橋洋が監修を務め、今までにない恐怖体験を提供している。

 リアルサウンド映画部では、本作を体験したうえで仙頭武則にインタビュー。数々の異色作を生み出した名プロデューサーがどんな仕掛けを施したのか、じっくりと話を訊いた。

参考:VRがもたらした新時代の恐怖! 『ダムド・タワー』がいざなう異空間を体験してきた

■「“怖がらせる”ことは簡単」

ーー予想以上の恐怖体験でした。VR技術もどんどん進化していく中、体験者が限りなくリアルな世界を観ることができるようにもできたと思いますが、あえて無機質なCGにしている。その狙いはどんなところにあったのでしょうか。

仙頭武則(以下、仙頭):CGクリエイターの世界では実物に近づけることが技術の向上であり、技術者たちも限りなく本物を目指そうとします。でも、本物を見せたいならわざわざVRでやる必要はない。むしろ、パッと観て誰でも分かるような、リアルとは正反対のCGの世界を作ろうと思いました。そんな世界に入ると、現実とのギャップに心理的な作用が生まれるのではと。監修を務めてくれた高橋さんがあらゆる方法を取り入れてくれたこともあるんですが、正直“怖がらせる”ことは簡単なんです。それよりも、VR体験の中で自分自身の感覚を分からなくさせ、異空間に誘う。そのために、あえてみえみえのCGにすることが重要だったんです。CGを施すクリエイターの方たちは、質感等をリアルにするために、あえて“汚し”を入れるんですね。でも、僕らが求めていたのはリアルな世界ではないので、作品の舞台を近未来に設定して、新品っぽさを出すために汚れがいらないんだと説得しました。

ーーやはり、技術周りの方々は、「もっとリアルにできますよ」と意見があったのですか?

仙頭:そうなんです。「普通だったらこうしますよ」「もっときれいにできますよ」と。映画製作でも、「普通」と言われると「本当にそうなの?」と疑って、真逆のことを考えてきたので、今回も同じでした。VRは横の動きしかできない、と言うのなら縦の動きも入れてみようよと。

ーー確かに作品の中に入った瞬間、CGと頭ではっきりと判断できるからこそ、自分がまったく違う世界に誘われてしまった感覚がありました。

仙頭:そう言っていただけてうれしいです。リアルだと体験者はそこに日常を感じてしまう。みえみえのCGだからこそ、体験者が絵の中を歩いているような感覚になってくれればと。

ーー新鮮だったのが、自分自身の身体を動かし、予想以上に部屋を歩き回ったことです。ヘッドセットを付けていると、自分が正方形の部屋にいるという感覚がありませんでした。

仙頭:そもそもの出発点として、「怖がらせる」ことよりも、4m×4mの空間で何ができるか、そして体験者にはもともとのリアルな空間にいたことを忘れさせる仕掛けを考えました。横だけではなく、縦の動きも取り入れ、階段を昇る代わりに体験者にエレベーターに乗ってもらおうと。だから最後に待ち受ける“高さ”も十分に感じていただけると思います。どれだけ体験者の視覚を揺さぶることができるかが一番の重要点でした。

■「映画でしかできないことも模索」

ーー途中ロッカーの中に隠れろと指示を出されるシーンがあります。当然、現実にはロッカーの扉もスペースもないのに、体験中は身体を思わず縮めて隠れている自分がいました(笑)。

仙頭:あのシーンは体験者の方を外から観ていて一番楽しいところです(笑)。襲ってくる者から隠れるために、本当に息を止めて身体もピタッと止めて。最近のホラー映画で言えば、『ドント・ブリーズ』や『クワイエット・プレイス』でもそういうシーンがありましたよね。そういったアイデアもストーリーに組み込んでいきました。

ーー仙頭さん、高橋さんが手がけているということで、ストーリーの展開には、やはり「映画」だなと感じる部分が多々ありました。

仙頭:個人的には、映画というメディアが少し時代遅れになってきたんじゃないかという不安があり、あと10~20年したらどうなってしまうんだろうと思うことがあります。こうしたVRのような新しいメディアで、映画の遺伝子的なものを活用することはできないのかと考えていたところでした。映画的なものにしようと意識して作ったわけではないですが、無意識のうちにその要素が入っているかもしれません。

ーー案内人から指示を出されて、次のルートに進むために扉の位置が360°変わっていく。まさに映画で言う、カット割りのようなイメージでした。

仙頭:その通りです。360°どこを見ても成立するように作っているからこそ、映画的なカット割りは通用しません。だから僕の中では、ステージごとに次の場所に進んでいくまでがひとつのカットのようなイメージでした。このカットを作っていた時、技術者と衝突したのが音なんです。彼らはリアルを追求しようとして、360°どこからでも音が聞こえてくるように作ろうとしてくれる。でも、僕のイメージではカットが変わっているので、後ろの音は聞こえなくなっているから異質感を生み出したかった。音の調整は最後まで大変でした。

ーー本作は平均10分間の作品となっていますが、もっと長い尺にしようという案もあったのですか。

仙頭:高橋洋曰く、これ以上延ばしたら「殺人マシーンになる。やめなさい」と(笑)。

ーー確かに1時間越えの作品にでもなったら最後まで到達できる人の方が少なくなりそうです(笑)。今回はジャンルとしては「ホラー」でしたが、今後別ジャンルの作品構想も?

仙頭:そうですね。次に作るなら、ホラーではなくてまったく違うことができればと思っています。今回は「脅かす」ことが主軸にあったので、次回は物語性を持たせた作品にできればと。映画制作の話法を知った映画監督が真正面から向き合ったらどんな作品を作るのか、試してみたいと思います。

ーーVRによって新しい表現が生まれていく一方、従来どおりの「映画」にはどんなものが求められるでしょうか。

仙頭:最終的には、お客さんがどんなものを選ぶか、そこに答えがあると思っています。映画もアトラクション化が進んではいますが、意外に原点へ帰ることが一番重要なんじゃないかと。本作のような新しい試みは今後も続けていきたいですし、映画でしかできないことも模索しながら、過渡期を知っている僕たち世代だからこそできるものを生み出していきたいですね。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記。

(石井達也)