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新文芸坐×早稲田松竹×キネカ大森、編成担当が語り合う“名画座”ならではの特集上映の組み方

リアルサウンド

19/1/27(日) 12:00

 若年層映画ファンの意識の変化、SNSの普及などで、改めて注目を集めている名画座。DVD、Blu-rayだけではなく、配信サービスによって今まで以上にいつでもどこでも映画を観ることができる環境となったが、旧作をスクリーンで観る醍醐味に多くの観客が年々魅了されている。

 リアルサウンド映画部では、多彩なプログラムで人気を集める東京の名画座3館の番組編成による座談会を企画。新文芸坐の花俟良王(はなまつ・りょお)氏、早稲田松竹の上田真之氏、キネカ大森の渋谷実里氏に、番組編成のコンセプト、劇場に訪れる観客の変化など、熱く語り合ってもらった。

参考:記憶に残る映画体験を! 新文芸坐・番組編成が語るオールナイト上映の醍醐味

●また来たいと思ってもらうために

ーー多彩なプログラムで映画ファンからも注目を集める3館ですが、まずは2018年会心のプログラムからお話いただけますか。

花俟良王(以下、花俟):2018年は新しい試みを模索した1年間でした。細かいプログラムでご迷惑をかけていると思うのですが、本当にいろんなことをやっています。特に印象的だったのが、年末に行った森田芳光監督の全作品上映。森田監督の奥様である三沢和子さんと、RHYMESTER・宇多丸さんが作品ごとに1時間の解説を行うという本当に贅沢な特集となりました。1986年の『そろばんずく』は公開当時は多くの人が「ポカーン」とした作品だったんですが、今観たらめちゃくちゃ面白い。森田監督は時代の先を行っていたんだなと改めて感じました。若い人も多く来場してくださり、非常に有意義な特集になったかと思います。

ーー監督の特集上映はあっても、全作品を時代順に上映するというものはなかなかありません。

花俟:そうですね。時代順に上映していったからこそ森田監督の真髄がより分かるものになったかと思います。ほかに印象的だったのは、役者の方々の追悼上映です。新文芸坐はプログラムが多すぎる分、番組がなかなか確定しないので、だからこそ急逝された方の上映も行うことができました。特に西城秀樹さんの出演作上映は、年間屈指の動員でした。

上田真之(以下、上田):外から見ていても西城さんの特集上映の人気にはびっくりしました。新文芸坐さんのプログラムのすごいところは、東京の観客だけではなく、地方からの来場者も集めているところにあると思っています。

花俟:韓国から来られた方もいたんですよ。あとびっくりしたのは、売店でブロマイドがめちゃめちゃ売れたこと。商品を出してくれたマルベル堂さんからも、「強気でどんどん出してくれ」って(笑)。西城さんのライブツアーに密着したドキュメンタリー映画『ブロウアップ・ヒデキ』の応援上映を1回だけ開催したのですが、この熱気も本当にすごかったです。年齢層が高いので最初はどうなるかと思ったのですが、上映後に泣きながら「本当にありがとうございました」と声をかけてくださる方もいて感動しました。ロードショー館にはなかなかできない、名画座ならではの番組だったと思いましたね。

ーー早稲田松竹の上田さんはいかがですか。

上田:印象に残っているのは、「ペドロ・コスタ レトロスペクティヴ」です。この数年、都内でもアートシネマの特集上映を行う劇場が減ってきていると感じています。それなら早稲田松竹が少しでもその役割を担えないかと思い、企画した特集でもありました。2016年にペドロ・コスタの『ホースマネー』が公開されたときも都内で特集が行われていたのですが、そのときはあまり盛り上がっていない印象でした。なので、今回もどうなるかと思いながら準備を進めていたのですが、大学生を中心に予想以上の集客でした。大作ではない特集の企画でもこれだけ観たいお客さんがいると知ることができた機会でもあったので、今後もアートシネマといわれる作品も拾い上げていきたいと思っています。

花俟:それが早稲田松竹さんの強みだよね。年末に王兵監督の『鉄西区』(上映時間545分のドキュメンタリー)をオールナイト上映していたけど、絶対にうちじゃ無理だもん。ペドロ・コスタみたいな作品も上映したいんだけど、うちはゾンビやアクションといったイメージが強すぎて……。

一同:(笑)。

花俟:池袋と高田馬場で距離も近いのに、客層が全然違うのが面白いなと思いつつ、羨ましいなと思います。

上田:お客さんも各劇場のカラーをやっぱり熟知されていますよね。ペドロ・コスタや王兵のオールナイト上映ができたのも、その前に王兵の『鳳鳴(フォンミン)― 中国の記憶』の集客が予想以上によかったのが決め手でした。尖った作品でも観たいお客さんは絶対にいる、そしてその1本が成功するとまた次の企画にも繋がる。知名度の高い作品の企画ももちろん必要ですが、いろんな切り口と組み合わせを提示しながら、お客さんにも映画の幅を一歩一歩拡げていただける劇場になることができればと思っています。

ーーそして、今回の企画を花俟さんにご相談したとき、「若手の番組編成で頑張ってる人がいる」と紹介していただいたのがキネカ大森の編成を務める渋谷さんでした。改めて編成の仕事はいかがですか。

渋谷実里(以下、渋谷):編成の仕事に就くと決まってから、各名画座さんを回り、花俟さんにもアドバイスをいただきました。皆さん、「楽しんでやったほうがいいよ」とおっしゃってくれたのですが、最初は楽しむどころではない感じで……。これで本当にいいのか、キネカ大森の歴史を壊すんじゃないかと怯えながら日々格闘していたんです。でも、“名画”は人それぞれですし、絶対に正解があるわけでもない。それなら、まずは私がいいと思ったものを組み合わせていこうと。

 キネカ大森はほかの名画座さんと違って、スクリーンが3つあります。ひとつはロードショー公開のファミリーもの、もうひとつは2番館(小ロードショー公開後数カ月経ったもの)として、そして名画座という構成です。ファミリー向けの『妖怪ウォッチ』、R15指定のバイオレンス『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』という、まったく相容れない3作品が同時に上映していることもありました。老若男女どの世代にも応えることができるのがキネカの強みかなと思っております。

花俟:キネカ大森さんの幅の広さは本当に羨ましいです。渋谷さんになってから明らかにプログラムも変化してきているので、3スクリーンある強みをどう活かしていくのか、今後が楽しみです。

渋谷:よくいえばバリエーションに富んでいる、悪く言えば雑多ということもあり、キネカ大森はなかなか劇場としてのカラーが作りづらいなと感じています。対して、新文芸坐さんも、早稲田松竹さんも名画座の中でも屈指のカラーを確立されていて。おふたりはどうやってそのカラーを作っていったんですか。

花俟:旧作邦画は主に支配人が担当していますが、「映画の垣根をなくしたい」というのが僕の出発点で、そこから逆説的にオールナイトの企画を考えていました。ジャンル無視でとにかく尖った面白さの作品を集めた「極端映画祭」を企画したときは、上司からは訳が分からないと突っ込まれましたが(笑)。

渋谷:昨年末の「年末に浮ついてる人戒め企画 一番怖いの人間ナイト」(『怪怪怪怪物!』 『ダウンレンジ』 『ミスミソウ』 『REVENGE リベンジ』)もすごい企画でした。お祝いモードの作品を並べるのが普通なところに、ここまで冷や水ぶっかけるような企画は新文芸坐さんならではだと思います(笑)。

花俟:普通に言えば「2018年バイオレンス秀作選」などになると思うのですが、それだと響かないかなと。

渋谷:これが花俟さんの持ってるセンスですよね。

上田:「垣根をなくして見せたい」という花俟さんの意図がこの企画のネーミングにもよく表れていると思います。

花俟:オールナイト上映は敷居の高いものではまったくないので、まずは「くだらないイベントやってるぞ」という感覚ででも知ってもらえたらなと。上映する作品は間違いないものを選んでいるので、自信があるときほどこういった特集タイトルを付けています。最近は、上映前に前説的なことも行っているのですが、なんとなく足を運んでくれた方が、「映画」そのものに興味を持ってくれたり、またこの劇場に来たいと思ってもらえるように心がけています。

渋谷:Twitterでも花俟さんの前説は好評ですよ。

花俟:それはとても有難いんですが、まだまだですよ。

●名画座同士の“作品の取り合い”は?

ーーこの数年、コアな映画ファン以外の方も名画座に足を運ぶようになった印象ですが、実際のところいかがですか。

花俟:確かにそうですね。10年前とは違い、名画座が“サブカル”の中にも食い込んできている部分もあるのかなと。SNSの発展もあり、目的を共有するコミュニティが可視化された結果、ある種のイベントとして名画座に足を運んでくれる若い世代は増えていると思います。

上田:僕が10代の頃(1990年代)は、北野武監督、黒沢清監督、塚本晋也監督をはじめに、諏訪敦彦監督、是枝裕和監督、青山真治監督、河瀬直美監督ら、日本人監督たちが海外の映画祭で高く評価されていた時期でした。映画好きな若者たちが、監督たちの原点となった旧作を観たいと名画座に通い、カルチャーとしての名画座という雰囲気が作られていたような気がします。その世代が社会人となり、今はさらにその下の「シネコン世代」が、また劇場の雰囲気を変えていっているなと感じます。

渋谷:私もまさにシネコン世代にあたるのですが、映画鑑賞=シネコンだったからこそ、ミニシアターや名画座に憧れを持っている部分はあると思います。

花俟:少し前までは、アニメや特撮関連の作品は、好きな人たちだけのものとして、そのコミュニティ内だけのものになっていました。メインストリーム層から、“カッコ悪い”ともみなされてしまうような。でも、今はSNSで同志を見つけて、恥ずかしいことではないと皆が連結して劇場に足を運んでくれているんです。以前はなかなか見ることのなかった若い女性も本当に増えています。

ーーシネコンではデジタル上映が当たり前となった今、フィルム上映を堪能できるのも名画座の醍醐味ですが、映画のデジタル化の影響は?

上田:DCP(デジタルシネマパッケージ/デジタル上映のフォーマット)によって、作業量的にはフィルムのときより楽になっていることは間違いないです。もちろん、デジタルがゆえの故障などもありますが。一方で、旧作全部がDCP化されるわけではないので、まだまだ35mm映写機は必要ですね。

渋谷:名画座はフィルム上映ができないと成立しないところがあります。でも、最近はフィルムをまったく触ったことがないスタッフもどんどん増えています。映写を行うことはもちろん、フィルムの扱い方を次世代にきちんと引き継いでいかないといけないと感じます。それと同時に、フィルムをきちんとした状態で保存していくことも名画座にとって重要な問題です。先日も文芸坐さんで上映した作品を、うちでもかけたいと思って相談したのですが、あまりにもフィルムの劣化が酷すぎてもうかけられないと。目の前に希望の作品があるのに、かけることができない、それが1番悔しいです。

花俟:その作品に関しては、画や音が飛ぶ「コマ飛び」だけではなくて、色が完全に抜け落ちてしまっていました。

ーー豊かな名画座のプログラムのためにも、改めてフィルム保存の方法などは映画界全体が考えなくてはいけない問題ですね。渋谷さんがおっしゃったように、他の名画座でかけていた作品をうちでもかけたい、というのはあると思うのですが、作品の“取り合い”のようなものはあるのでしょうか。

花俟:かつては「先にうちが!」みたいなのもあったんですけど、“取り合い”からは今は降りました。仮に同じ作品だったとしても、組み合わせるほかの作品や、上映する時期によってまた違った色合いになるものなので。いち映画ファンとしても、少ない名画座で同じ作品ばかりかかっていたら面白くない。「お目当てじゃない作品が掘り出し物だった」というのは名画座の醍醐味だと思いますし、その選択肢が多ければ多いほどいいなと。まあ、それを商売として成立させるのが難しいのですが(笑)。

渋谷:勉強になります。私は新文芸坐さんや早稲田松竹のプログラムをみて、いつも憧れているので、「キネカもこんなことやっているんだ」と思ってもらえるように頑張りたいと思います。

花俟:いや、もう思ってますよ。昨年12月の『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』 『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の2本立ては、子供も大人も客層の中心にいるキネカさんならではの企画だと思いました。

渋谷:たくさんのお客様にお越しいただき、2018年のキネカ大森名画座で一番の成績をあげられることができました。まるちゃん、しんちゃんと一緒に年を重ねた大人に向けて考えた組み合わせでしたが、お子様連れのお客様もたくさん来てくれて嬉しかったです。

花俟:僕たちがこの劇場はこんな2本立てをやるだろうな、と予想するように、映画ファンの皆さんは、Twitterで「新文芸坐はこの2本立てをやるべき」とかガンガン言ってくるよね。

一同:(笑)。

渋谷:そういった意見は参考にされているんですか。

花俟:オールナイトも含めて番組数が圧倒的に多いので、パクらせていただく気満々です(笑)。ただ、権利問題などの実情はご存知ないから、みんな無茶な要求ばかりで(笑)。

上田:以前、音楽ドキュメンタリー映画ということで、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』と『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』の2本立てを上映しました。非常に沢山のお客さんが来てくれたんですが、中には「なんで、この2本を一緒にしたんだ!」とおっしゃる方もいらっしゃって……。音楽映画を観たい方には喜んでいただけても、それぞれのアーティストのファンの方にとっては一緒にされたくないわけです。足を運んでくれる方全員に納得してもらうのはなかなか難しいなといつも感じています。

花俟:僕もしょっちゅう文句言われているよ(笑)。本音としては、早稲田松竹さんで組んでいるような作家性やテーマなどで切り取ったものがやりたいのですが、同じ試みをしたらもったいない。それならばと意外な2本を組み合わせることを念頭に入れています。会心だったのは、『ダンケルク』と『新感染 ファイナル・エクスプレス』の2本立て。最初は「全然合っていない!」と非難轟々だったんですが、『ダンケルク』目的で足を運んでくれた方が、「初めて韓国映画を観たけど面白かった」と言ってくれて。おこがましいけど、こういった試みで少しでも映画の土壌が広がればいいなと思っています。それでも非難されると傷つくんですが……(苦笑)。

上田:なかなか狙い通りにはいかないんですよね。『あさがくるまえに』と『グッド・タイム』という、これから期待の若手作家の2本立て、さらにレオス・カラックスの『ポーラX』をレイトショーに付けて、「この格好いい作品たちを観て!」という思いだったのですが、お客さんは全然入らなくて……。自分で会心のプログラムが組めたと思っても、当たらないことも多いですし、新しい作家たちを紹介するのは改めて難しいなと感じます。

渋谷:常に会心のプログラムを繰り出しているように見えるおふたりにも、いろんな悩みがあるんですね。

上田:先程渋谷さんもおっしゃっていましたが、僕も最初はプログラムを決めるのが怖い時期がありました。僕らよりも映画を観ていて、知っている方はたくさんいるわけです。そんな方たちに対して、若輩者の自分がこの映画を観てください、と主張していいのかと。でも、みんな僕の考えた組み合わせを観に来ているのではなく、そこで上映される「映画」を観に来ているのだと思ったら、そんなに難しく考えすぎなくてもいいと思ったんです。名画座として、早稲田松竹として、やらなきゃいけないこと、やってはいけないことさえしっかり分かっていれば。渋谷さんが考えた『ちびまる子ちゃん』と『クレヨンしんちゃん』の2本立ては、うちでやっても大当たりにはなかなかならないと思いますし、ゾンビ映画のオールナイトをやるなら新文芸坐さんで観たいと思う方がほとんどだと思います。私が最近気になっている諺に「壊れていないものを直すな」というのがあるのですが、短期的に当たりのプログラムがなかったとしても不安になって焦らずに、各劇場に求められているもの、それを大事にさえしていれば、全体で見れば劇場のカラーを作っていくことになるのではないかなと思います。

(取材・文=石井達也)

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