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ディズニースター版『glee』? 『ステータス・アップデート』はSNS時代のスクールカースト物語

リアルサウンド

18/10/29(月) 12:00

■新時代の『glee』

「スクールカーストのトップに速攻で立った僕
でも数週間前まで君たちと同じだった
ステータスを更新して世界が変わった
これから詳しく説明するよ」

 『ステータス・アップデート』はディズニースターが挑戦する『glee/グリー』のような映画だ。監督はそのまま『glee』、そして『ヘアスプレー』でお馴染みのアダム・シャンクマン。キャストにはディズニー・チャンネルで名を上げたロス・リンチとオリヴィア・ホルト。ストーリーも『glee』と共通点が多い。

 まずスクールカースト問題。リンチ演じる主人公カイルは、転校早々高校で「イケてない組」に就任してしまう。そしてキャスト自らが歌う音楽の要素。ホルト演じるダニーに惹かれたカイルは、旧体制の音楽部をモダンにアップデートし、コンクール優勝を狙う。エリート運動部とイケてない音楽部の顧問はそれぞれ破天荒だ。

a href=”http://www.realsound.jp/movie/2018/10/post-269951.html”>【動画】『ステータス・アップデート』予告

 ただし、この作品は『glee』と決定的に異なる。それはデジタル要素だ。『ステータス・アップデート』の高校生たちはデジタル・ネイティブであり、日常にSNSが欠かせない。クイーン・ビー(学園の女王)のフォロワーは数万人規模、イジめられるオタクのフォロワーは母と祖母のみ。カースト・トップに君臨するエリート体育会系すら、同級生の前で格好悪いことをしたら動画を拡散され評判を下げてしまう。この映画は『glee』以降に位置するSNS時代のスクールカースト物語なのである。

 そして、特異な点がもう一つある。転校早々負け組になった主人公は、それからすぐさまスクールカーストの頂点に駆け上がる。そしてそれは、“魔法のアプリ”を使った“ズル”だった。

■ドラえもんのような秘密道具で学園のスターに?

 転校早々イジめられたカイルは、スマートフォン・ショップで魔法のSNSアプリ・ユニバースに出会う。このアプリのルールは以下の3点。

1. アプリにポストした文章が本当のことになる
2. 一度アプリに書いたことはなくならない
3. ただし設定を上書きすることはできる

 カイルは、このアプリを使ってまたたく間に学園のスターに君臨した。例えば、喧嘩をふっかけられた際は「ブルース・リーのようになる」とポストし、華麗に相手を倒す。アイスホッケー部のエースにイジめられた場合、ユニバースにひと言書き込んで天才ホッケー選手になりさえすれば、栄光の立場を奪える。まるで『ドラえもん』のような便利アイテムだが、野比のび太と同じく、カイルはこの道具で失敗も重ねることとなる。例えば、軽音部の入部テストで「自分はクラシックな歌唱技術を持つ」と投稿。一発合格は間違いないと目論むも、いざステージでカイルが歌ったものは超高音域のオペラ。たしかに「クラシックな歌唱技術をマスター」していたが、笑いものになってしまった。使い方にテクニックが要されるのも面白さだ。

 圧倒的なオペラ歌唱を披露してしまったカイルは、その失敗を活かし「ブルーノ・マーズのように歌って踊れるようになる」と投稿する。彼が食堂で「Locked Out of Heaven」を歌うシーンは、多幸感あふれる本作のハイライトのひとつだ。そして、このマーズのラブソングは、まさにカイルの境遇を表している。

「愛や奇跡なんてあまり信じてなかった 危険な恋にも興味なし
でも君を抱くとぶっとんじゃう 君と寝るたび生まれ変わる
君とのセックスはパラダイス 嘘じゃないさ
君と会うまでパラダイスを知らなかった 長い間ずっと知らなかった」

 カイルはこの曲を憧れのダニーに捧げる。ダニーもカイルに惹かれる。ゆえに、この歌詞が指す「君」とは彼女を指すように見える。しかし、映画の展開を考えると「君」の正体は違って見える。カイルをパラダイスに連れて行ったのは、ダニーでも彼自身の努力でもなく、ユニバースだ。大きな夢も希望も抱いていなかった本作の主人公は、魔法のアプリに投稿するたび生まれ変わり「素敵な恋人を持つスクールカースト頂点」というパラダイスを手に入れたのである。ちなみに、カイルが歌ったこのヒット曲は、このように続いていく。

「これからの人生すべてここで過ごしたい
でもそれは無理だね」

 カイルが手に入れたスクールカーストの頂点、そしてダニーの恋心は、魔法のアプリの賜物だ。他の生徒たちと比べれば“ズル”に等しい。パラダイスに到達した彼を待ち受ける未来は、このまま楽園というわけにはいかないだろう。前述した『ドラえもん』においても、便利なひみつ道具によっていい目を見たのび太がハッピーエンドで終わることはほぼない。

■ソーシャルメディアの「表面」を実現する面白さ

 「SNSは人生の良い部分しか見せない」──これは2018年には知れ渡った意見だ。Instagramのフィードを見ていると、自分以外の皆が輝かしい人生を送っているように見える。しかし、多くの人々は人生の一部を切り取って編集を加えた上でポストしているわけで、SNS上のライフスタイルが真実というわけではない。とは言っても、それでも羨みが出てくるのが人間だ。エリート体育会系にきらびやかなパフォーマー……それらが何の努力もせず手に入れたらどんなに良いだろう?

 『ステータス・アップデート』は、そのような「SNS上の表面的な輝きの取得」を実現してしまう映画だ。主人公は、ユニバースによってトップの学力、運動スキル、歌唱力を手に入れる。自然と女子にモテるようになり、男子も教師も彼を喝采しはじめる。しかしながら、周囲が絶賛するカイルの能力や結果は、本人にとっては何の努力も介していない「薄っぺらで表面的な輝き」に過ぎない。元々の学園エリートたちは、意地悪だろうと、己を磨く努力はしていた。カイルとは決定的にそこが違う。魔法のアプリに頼りつづける彼はだんだんと努力しなくなるし、周囲の人々をないがしろにしはじめる。「高校のスター」になればなるほどアプリ中毒となっていくカイルにはどのような展開が待ち受け、そして彼は何に気づくのか?

 ソーシャルメディア時代のティーン映画『ステータス・アップデート』は、これまでとは一味違った自己実現の物語へ着地する。

 余談だが、主演のロス・リンチはアイスホッケーとスケートボードの経験を持つ現役ミュージシャン兼俳優。本作ではそれらの多彩な経験を活かし、ほとんどをスタントなしで撮影したと語っている。カイルが魔法のアプリによって手に入れるスーパーな運動および歌唱スキルをリンチは地で持っているわけだ。もしかしたら、ロス・リンチこそ一番ユニバースを必要としないスター人類かもしれない。そんなリンチは、2017年、映画『My Friend Dahmer(原題)』で実在の連続殺人鬼役に挑戦し高評価を博した。『ステータス・アップデート』は、新たなムービー・スターの目撃としても楽しめるだろう。

(辰巳JUNK)

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