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いま、最高の一本に出会える

今のステイサムは演技も人の頭に回し蹴りもできる! 『MEG』は役者としての総決算に

リアルサウンド

18/9/16(日) 10:00

 「演技はできないが、人の頭に回し蹴りはできる」。かつてジェイソン・ステイサムは、自身をこのように評した(参考:ウレぴあ総研|ジェイソン・ステイサムの“こだわり”とは?)。なんと謙虚かつ豪胆な言葉であろうか。己を卑下せず、かといって己惚れもしない。こうした生真面目な姿勢こそ、ステイサムが愛される理由であろう。そして彼の自己認識は、ある意味で正しい。ステイサムと言えばアクションであり、彼が言う通り、演技より回し蹴りを求められる仕事が多いのは事実だ。しかし、私はステイサムに言ってやりたい。「いや、あなた演技もイケますよ」。現在公開中の『MEG ザ・モンスター』(18)はジェイソン・ステイサムの“演技”が存分に堪能できる1本だ。

参考:『MEG ザ・モンスター』監督が語る“サメ映画”の醍醐味 「観客に安心感を与えないことが大切」

 ある日、深海で潜水艦が事故を起こした。救助チームのジョナス(ジェイソン・ステイサム)は手際よく潜水艦のクルーたちを助けていくが、突如として“何か”が潜水艦に襲いかかってくる。このままでは船員も救助チームも全滅だ、そう判断したジョナスは、潜水艦に取り残された2人の仲間を見捨てて脱出する。救助には成功したものの、深海で“何か”に襲われたという主張は通るわけもなかった。正気を疑われたジョナスはレスキュー・ダイバーの世界から引退する。そして月日は流れ……。中国の海洋研究所では、最新鋭の潜水艇を使った深海の調査が行われていた。未知の海溝を発見して喜ぶのも束の間、潜水艇は“何か”の襲撃を受ける。深海で何が起きたのか? 潜水艇の救助は? 潜水艇を襲った“何か”の正体とは? 混乱に陥った研究所のメンバーは切り札として、あの男を呼び戻す。深海レスキューのプロフェッショナルにして、かつて“何か”と遭遇した男――ジョナスである。ジョナスはタイで酒に溺れる極ゆるライフを送っていたが、潜水艇の操縦士が元妻だと知らされるや、速攻でやる気になって現地へ飛ぶ。常軌を逸したスキルとタフさで救助を成功させたジョナスであったが、彼の前に再び“何か”が姿を現した。それは古代の海の支配者、絶滅したはずの巨大鮫・メガロドン! かくして人間VSメガロドン、生命の歴史を賭けた激闘の幕が上がった!

 今回、ステイサムが戦うのはメガロドンである。この対戦相手は、ステイサムのキャリア史上最強の難敵と言える。それは劇中の強さだけではなく、メタな視点から言っても同様だろう。何故ならメガロドンに回し蹴りは効かないし、メガロドンもステイサムほど機敏な格闘アクションができないからだ。ジョン・タートルトーブ監督も「今回は彼(※ステイサム)が今までやってきたアクションとはちょっと違う。カーアクションも人との取っ組み合いもない」とインタビューで語っている通り、本作にはステイサムが最も得意とする格闘アクションがない。いわば最大の武器を封じられた状態でのハンデ・マッチと言ってもいいだろう。

 ところが、結論から言えばステイサムは色々な意味でメガロドンに勝った。本作の彼はメガロドンに食われず、演技的な意味でも食われていない。作品のトーンにマッチした名演を見せてくれる。タートルトーブ監督は『クール・ランニング』(93年)、『ナショナル・トレジャー』(04年)と言った、お茶の間にピッタリ系の作品を手掛けてきた人物であり、本作も良い意味で大らかな映画だ。鮫が人を食い殺して回るが、直後にユーモアがそれをフォロー、決して陰惨な雰囲気にはならず、最後まで笑顔で楽しめる作品になっている。しかし、こうした作品のトーンは、次のことを意味している。仲間が食べられた直後に、ギャグを飛ばさなければならない。人が死にまくる中で笑顔を浮かべる、それは一歩間違えばサイコパス、観客から「人が死んでるんだぞ」と不興を買いかねない。下手な人間ドラマより難易度の高い演技が求められると言っていいだろう。そこをステイサムは突破してみせた。サイコパスではなく、筋の通ったヒーローとして、「ジョナス」という男を演じきっている。『ハミング・バード』(13年)の己の過去に苦悩する繊細な演技や、『SPY/スパイ』(15年)でのバカ演技、そして『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15年)での「弟のお見舞いに来た病院を破壊する」と言ったセルフ・パロディ的な最強キャラ演技の合体技だ。おまけに元・飛び込みの選手の過去を活かし、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)の半魚人ばりに美しいフォームで海を泳いでくれる。役者としての面で言うなら、本作は現時点のステイサムの総決算とも言っていいだろう。

 演技はできないが、人の頭に回し蹴りはできる。かつてステイサムが自分をそう評したが、今やこの表現は適切とは言えない。今のステイサムは演技もできるし、人の頭に回し蹴りもできるのだ。ジェイソン・ステイサムという“役者”の力で魅せる、夏を〆るのにピッタリの一本だ。(加藤よしき)

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