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乃木坂46、『美少女戦士セーラームーン』ミュージカルに吹かせた新風 画期的な演出方法を振り返る

リアルサウンド

18/8/12(日) 10:00

 6月に上演された乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』(東京・天王洲銀河劇場)は、重厚な歴史を持つ『セーラームーン』のミュージカルのあゆみに、独特の仕方で新しい一歩を加えるものだった。

参考:乃木坂46 星野みなみ&若月佑美 1期生コンビが語る、7年目突入したグループの勢いと未来

 もとより、『セーラームーン』ミュージカルの再構築、それも乃木坂46というグループの新規参入によってあらたに成立させることは、決して容易な試みではない。

 マンガやアニメーションなどの2次元コンテンツに原作をもつ舞台演劇をさす2.5次元舞台(2.5次元ミュージカル)という言葉は、2000~2010年代に新興ジャンルとして広く流通するようになった。「セラミュー」ないし「セラミュ」の略称で知られるミュージカル版『セーラームーン』も、通常そのひとつとして認識される。

 しかし、セラミューは2.5次元舞台というジャンルの定着よりはるかに先んじて、1990年代からバンダイ主催のもと舞台化が続けられ、近年はキャスト編成などがアップデートされつつネルケプランニングが継承して上演されるようになった。他方で、今日2.5次元舞台が論じられる際、代表的な作品群として認識されるのは、若手の男性キャストによる群像劇のミュージカルであり、セラミューはそれらとはやや別の場所で歴史を育んでいる。セラミューはこのジャンルの礎にはなりつつも、2010年代の2.5次元舞台のメインストリームとはやや異なる独自の立ち位置にある。もちろん、バンダイ版とネルケ版それぞれの上演の性格も一枚岩ではない。新基軸によるセラミューの再構築は、その独自の歴史と立ち位置をいかに引き受けるかという課題に対峙することでもある。

 さらに、3次元のアイドルというジャンルはしばしば、「畑違い」による侵犯のようなものとして、2次元ジャンルのコンテンツの消費者から警戒されがちでもある。これはアイドルというジャンルそのもののパブリックイメージに負うところも大きいが、ともかくそうした必ずしもポジティブでない前提がはらむ困難は小さくない。乃木坂46版セラミューは、それらまでを含んだ視線をどのように超えてゆくかが問われるものにもなる。だからこそ、乃木坂46によるセラミューはその見かけ以上にチャレンジングなものだった。

 このハードルを超えるべくまず施されたのは、ウォーリー木下の演出によるアップデートだった。乃木坂46版セラミューと同じく6月に上演されていた、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』シリーズなどでも演出を手がける木下によって、今作はプロジェクションマッピングを駆使した密度の高い絵面になった。変身シーンなど呼び物になりやすい場面でこの映像効果が活きるのはもちろんだが、原作のダーク・キングダム編をまとめた今回の物語の中で、登場人物たちの背景にある世界が逐一、具体的に描き出されたことが大きい。視覚的に間延びしないシーンをつなぐことで生まれるテンポは、乃木坂46版セラミューの基調をつくるものになった。これまでのセラミューのオーソドックスな継承にはなりにくいこの企画にとって、今日的な2.5次元演劇の想像力によって生まれたこの演出は大きな役割を果たした。

 そのうえでなにより重要なのは、セーラー戦士を演じた乃木坂46メンバーたちの、役柄への専心だった。2チーム制(「Team MOON」「Team STAR」)でキャスティングされた5人のセーラー戦士のうち、演劇に重きをおいてきた乃木坂46のなかでも着実な実績を積んでいる井上小百合と、よりアニメ的なディフォルメを細部に宿した山下美月によるセーラームーン/月野うさぎ役が好対照をなして、2チーム制を意義深いものにした。

 乃木坂46というグループとして見るならば、1~3期生がそれぞれの現在地をポジティブに示せたことが芝居全体に良い効果をもたらした。山下に限らず伊藤理々杏、梅澤美波ら3期生はすでにキャリアの差を感じさせない成長スピードの速さを見せつけ、またこれまでグループの中で演劇分野での実践が多いわけではない寺田蘭世、渡辺みり愛ら2期生はセーラー戦士にうまく適応していた。1期生同士の対照の妙でいうならば、セーラーヴィーナス/愛野美奈子役を分け合った中田花奈と樋口日奈は、互いに大きく違う仕方で培った引き出しを見せる面白さが目を引いた。台詞の発声でセーラー戦士随一の安定感をみせる能條愛未や、セラミューの身体を最も強く意識していたようにみえる高山一実を含め、1期生がこれまでの活動の厚みをそれぞれのやり方で表現していたのが興味深い。

 キャストのバランスの良さはセーラー戦士のみならずトータルに感じられる。なかでも石井美絵子が演じるタキシード仮面/地場衛のバランスが光る。従来のネルケプランニング版で大和悠河が表現する人物造形がある種の男役の完成形であるだけに、いくぶん舞台上において特権的になりうるのに対し、石井によるタキシード仮面/地場衛はより少年性も強く、セーラー戦士たちと同じ水準に立っているようで面白い。あるいは、プロジェクションマッピングによる都市的なイメージの具現とは対照的に、パペット操演(松本美里、若狭博子)によってルナをキャストと共演させるアナログな手法もフレッシュな効果をみせ、セラミュー史上でもイレギュラーな企画であった乃木坂46版が、明確なスタイルを完成させるのに貢献していた。

 イレギュラーな企画であるとは書いたが、それでもセラミューの歩んできた歴史の先端に乃木坂46版があることを強く認識させるのが、本編終了後のライブショーだった。バンダイ版のセラミュー楽曲であった「La Soldier」「FIRE」が、時を経てネルケプランニング版としても新たな試みとなった今回の企画によって甦ることで、セラミューの歴史性が舞台上にあらわれる。その歴史の体現を、舞台演劇に傾斜しながらキャリアを重ねてグループアイドルのトップに立った今日の乃木坂46が引き受けることもまた感慨深い。

 歴史と新生とを絶妙に感じさせる乃木坂46版セラミューは、キャストと演出とが好相性をみせながら見事な水準でステージを成立させた。この乃木坂46版が『美少女戦士セーラームーン』にかかわるプロジェクト総体にとってどのように位置づけられていくのかは、新演出で行なわれる9月の公演やその先に紡がれる歴史にゆだねられる。ともかくも、相当にチャレンジングでありながら、大いにポジティブな成果をあげた乃木坂46版セラミューが、この先のセラミューを描くうえでも貴重な参照点になったことは間違いない。(香月孝史)

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