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いま、最高の一本に出会える

『ボヘミアン・ラプソディ』ScreenX版はライヴ・エイドが見せ場に 音楽映画ならではの臨場感

リアルサウンド

18/11/15(木) 19:00

 英国が誇るロックバンド、クイーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーにスポットを当てた伝記的映画『ボヘミアン・ラプソディ』が、異例の大ヒットを記録している。アメリカでの公開初週末(11月2日~11月4日)の全米ボックスオフィスランキングによれば、興行収入は約56億円で首位。日本でも9日から公開され、あちこちで絶賛の声が上がっている。

 今から8年前に製作発表されるも、監督や主演の変更が相次ぐなどトラブル続きだった本作だが、いざ蓋を開けてみればまるでフレディの魂が乗り移ったような、主演ラミ・マレック(『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』)の熱演を始め、メンバー監修のもとに行われたライブパフォーマンスなどの完全再現、名曲「Bohemian Rhapsody」が誕生する過程など、とにかく見どころが満載。史実と異なるところも多々あるが、それすら鑑賞後の話のネタとなり、リアルタイム世代を中心としたクイーンのコアなファンを唸らせつつ、「クイーン? 名前くらいは知っている」という若い世代の観客をも魅了しているのだ。

 筆者は今回、「ScreenX」が導入されたユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で鑑賞。ScreenXとは、正面にある通常のスクリーンに加えて、左右の壁にも映像を上映することで視界を270°にわたりカバーする上映システムだ。

 中でも最大の見せ場は、やはり『ライヴ・エイド』の完璧な再現である。おそらく『ライヴ・エイド』といっても、若い世代はピンとこない人も多いと思うので、ここで少し説明しておきたい。「20世紀最大のチャリティー・コンサート」と言われた『ライヴ・エイド』は、「1億人の飢餓を救う」をスローガンに「アフリカ難民の救済」を目的として、1985年7月13日に行われたもの。元々は、ブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフが呼びかけ人となり、カルチャー・クラブやデュラン・デュラン、ボノ(U2)らUKのスーパースターが勢ぞろいして、「バンド・エイド」名義でレコーディングされたチャリティソング、「Do They Know It’s Christmas?」(1984年)が発端である。

 このバンド・エイドに感銘を受けたのが、マイケル・ジャクソンやボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンらが参加した「USAフォー・アフリカ」。ひょっとしたら、彼らがレコーディングした「We Are The World」(1985年)のほうが、「Do They Know It’s Christmas?」よりも有名かも知れない。とにかく、80年代半ばに起きたこの一大チャリティ・ブームの「総仕上げ」という形で行われたのが『ライヴ・エイド』だったのだ。

 メイン会場は、英国ロンドン郊外の「ウェンブリー・スタジアム」と、米国フィラデルフ
ィアの「JFKスタジアム」。開催時間は12時間に及び、計84カ国で衛星同時生中継された。日本でも当時、フジテレビで生放送が行われたが、その番組編成については様々な物議を醸したのは有名な話である。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれているが、当時のクイーンはメンバーのソロ活動も行われるようになり、その関係性に亀裂が生じ始めていた。のちにブライアン・メイは「ライヴ・エイドがなければ、そのまま僕らは解散していたかもしれない」と振り返っているが、新しいバンドが次々に現れ、徐々に“過去のバンド”とされつつある彼らにとって、ライヴ・エイドは「起死回生」のチャンスでもあったのだ。

 果たしてそのパフォーマンスは、今も語り草となるほど素晴らしいものだった。ウェンブリー・スタジアムを埋め尽くすオーディエンスの前で、全出演者の中でも最多の6曲を披露。クイーン以外のファンも大勢いたであろう、決して「ホーム」とはいえない場所を、あっという間に掌握していくフレディのパフォーマンスには、ただただ圧倒されるばかりだ。冒頭「Bohemian Rhapsody」から沸き起こるシンガロング、茶目っ気たっぷりのコール&レスポンス、そしてラストを飾る「We Are the Champions」のステージング。その「完璧な20分間」が世界中で放送されると、翌日から再びクイーンのアルバムが売れまくるという現象まで引き起こしたのだった。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、この伝説のステージを細部に至るまで完璧に再現している。ボービントン空軍基地に作られたセットには、メンバーの背後にあるアンプや機材はもちろん、フレディの弾くピアノの上に置かれたステージドリンクの量までが当時のまま。フレディ役のラミを始め、メンバーたちの衣装やステージアクションも(コレオグラファーではなく、ムーヴメント・コーチのポリー・ベネットが協力)、ディティールに至るまで再現されているため、コアなファンであればあるほど楽しめるだろう。

 ScreenXでは、映画の中でクイーンの演奏シーンになると、正面のスクリーンに加えて左右の壁にも画面が広がり、まるでバンドのメンバーになった気分を味わえた。特にライブシーンでは、自分がステージに立ってフレディたちと共に大歓声を浴びているようで、何度も鳥肌が立った。ライヴ・エイドのシーンは、ウェンブリー・アリーナの上空から、ひしめくオーディエンスの中へとカメラが入っていくファースト・カットから、息を呑むような臨場感。しかも、単に画面が左右に広がるだけでなく、マルチスクリーンでの演出も随所に散りばめられている。例えば、正面にフレディが立ち、左右にメンバーの姿が映し出されるなど、通常の上映では観ることのできないカットも楽しめるのだ。

 レコーディング・シーンでも、ScreenXの臨場感は同様に味わえる。例えば「Bohemian Rhapsody」のレコーディング・シーンでは、4人がオペラ風のコーラスを次々と重ねていく様子が3面マルチスクリーンに映し出され、四方八方から声が降り注ぐ迫力に圧倒される。また、「We Will Rock You」でも足踏みの様子が映るなど、楽曲にあわせた見どころも用意されているのだ。

 映画の魅力は、音楽だけではない。複雑な生い立ちや容姿にコンプレックスを持ち、セクシャル・マイノリティであることに葛藤しつつも「自分らしくあること」を何より重んじたフレディの生き方は、「多様性」が求められる今、学ぶべきことが沢山あるし(本作を観れば、あの名曲「We Are the Champions」が、“勝者による、勝者のための歌”などではないことが分かるはず)、そんな彼を「生涯の友」として支えた元ガールフレンド、メアリー・オースティン(映画では結婚したことになっているが、実際は同棲していただけだった)との関係性は、異性間の愛情・友情のあり方について、改めて深く考えさせられる。

 本作『ボヘミアン・ラプソディ』は、伝説のバンド、クイーンを懐かしむために作られた、懐古主義的な作品では決してないのだ。(文=黒田隆憲)

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