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小袋成彬、芸術性と歌を軸にした濃密な1時間 『分離派の夏』以降のビジョン示した東京ワンマン

リアルサウンド

18/10/15(月) 15:00

 シンガーソングライターの小袋成彬が10月10日、東京・渋谷WWW Xにて初の東阪ワンマンツアーの東京公演を開催した。今年4月に1stアルバム『分離派の夏』でメジャーデビュー。今夏は『FUJI ROCK FESTIVAL ’18』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO』をはじめとする大型フェスに次々と出演し、そのたびに大きな注目を集めてきた小袋だが、今回のツアーで彼は、その音楽的な才能とパフォーマーとしてのポテンシャルの高さを改めて証明してみせた。

(関連:小袋成彬渋谷WWW X公演写真

 開演30分前にWWW Xに入ると、フロアはすでに観客で埋まっていた。年齢層の中心はおそらく20代半ばから後半。(筆者の勝手な印象ですが)総じてオシャレ度が高く、音楽偏差値もかなり高そう。静けさのなかにも、ライブに対する期待の高さが伝わってくる。

 19時を少し過ぎた頃、ひとりでステージに登場した小袋は、椅子に座り、ライブをスタートさせた。最初のナンバーはアルバム『分離派の夏』の収録曲「再会」。目線をやや下に落としたまま、美しい低音が響くトラックとともに、豊かなファルセットボイスを響かせる。そのまま「Game」「茗荷谷にて」「Loneley One feat.宇多田ヒカル」などアルバムの収録曲を次々と披露。MCを挟むこともなく、一人だけで淡々とステージを続ける。観客はほとんど拍手もせず、じっと彼の歌に耳を傾けている。以前にも彼のライブを観たことがあるが、ボーカルの質は確実に向上していた。日本語のリリックをナチュラルに響かせる独特のフロウ(それはおそらく、彼の身体のなかにプリセットされているものだろう)を存分に活かし、濃密なグルーヴと匂い立つような色気を同時に放っていたのだ。“感情を込める”といった曖昧なことではなく、韻の踏み方、ドラム、ベースのアレンジなどの具体的な操作によって歌を際立たせていることも印象に残った。歌うという行為に対する冷徹な視線、そして、自らの声を正確にコントロールする技術がなければ、こんなパフォーマンスは絶対にできないと思う。

 6曲目の「Summer Reminds Me」以降はギタリスト、マニュピレーターが加わり、3人でステージを構成。生楽器の音が入ったことで、サウンドの手触りはゆっくりと変化していく。アップテンポの曲はまったくないが、トラック、歌、ギターが有機的に絡み合うことで、思わず身体を揺らしたくなる心地よいグルーヴへと結びつけていた。周囲の音と呼応しながら、まるでエフェクターのモジュレーションを変化させるように声の表情を変えていく小袋のボーカリゼーションも絶品。厚みのある低音から美しくも儚い高音をバランスよく配置する歌いっぷりからは、シンガーとしてのセンスの良さがはっきりと実感できた。

 この日のセットリストは『分離派の夏』の楽曲に加え、5曲の未発表曲、アリシア・キーズ「If I Ain’t Got You」のカバーで構成されていたのだが、全体を通し、ひとつの大きな物語を描いている印象を受けた。青春と呼ばれる時期から大人になるまでの時間、そのなかで経験した悲しみ、憂い、喪失感をリリカルに綴り、豊かな音楽世界へと結びつける。まるで小袋の一人舞台のようなステージからは、彼が歌という表現に向かう根源的なモチベーションが感じられた。おそらく小袋は“歌じゃないと表現できない何か”を掴もうとしているのだと思う。

 小袋自身もギターを弾き、心地よいダイナミズムを演出した「Daydreaming in Guam」、ストリングスを取り入れたトラックとともにエモーショナルな歌声が響いた「Selfish(WoO!)」、など、後半も見どころ満載。この日のライブで披露された新曲のほとんどが、“光”や“希望”のイメージをまとっていたことも記しておきたい。特に最後に披露された新曲「ある暮らしのための曲」は本当に素晴らしかった。幾重にも声を積み重ね、ゴスペルのようなイメージをもたらすアレンジ、そして、祈りにも似た雰囲気を感じさせるボーカル。この楽曲からは、『分離派の夏』以降の彼の音楽的ビジョンを感じ取ることができた。MC一切なしで18曲を歌い切った小袋成彬。パフォーミングアートとしての芸術性、彼自身の歌を軸にした生々しい臨場感を同時に体感できる濃密な1時間だった。(森朋之)

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