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“AI作曲家”イメージイラスト

人工知能が作る音楽 “AI作曲家”から見たポップミュージックの世界(中編)

ナタリー

19/2/18(月) 12:10

この連載の前編では、AI技術が音楽の世界に及ぼす影響や、すでに商用利用もされているAI作曲家を実例と共に紹介し、その現状について解説した。今回は「そもそも作曲とは何か」について改めて考えながら、AI作曲家の今後の可能性を考察する。

アルゴリズムとしての対位法、和声理論

歴史を紐解くと、コンピュータによる作曲は意外と歴史が古い。レジャレン・ヒラーによって1959年に作曲された「弦楽四重奏のためのイリアック組曲」が、実際にコンピュータによって作られた最初の音楽作品だ。4つの楽章からなるこの組曲は、楽章ごとに異なるアルゴリズムが用いられている。第1、2楽章では、対位法(複数のメロディを重ねる作曲技法)に基付いて音高や音価(音の長さ)といったパラメータを決定するアルゴリズムが、第3楽章では音高や音価だけではなく音量や奏法も扱うアルゴリズムが、第4楽章では楽理とは無関係にランダムなメロディを生成するアルゴリズムが使われている。もちろん当時のコンピュータに音声データを扱うほどのスペックはなく、生成されたのは譜面だけ。演奏は人間が行う。

という具合に、例えば弦楽四重奏を書き上げるだけであれば、一定の規則に従って譜面を生成する初歩的なプログラムで足りる。今となっては電卓以下のスペックにすぎない計算機でも十分に実現可能だ。もちろん、できあがった曲のクオリティについてはクラシックに精通した人ならば一家言あるかもしれない。しかしよくできているか否かは別として、それが曲として成立していること自体は否定しないだろう。

そもそも、メロディの進め方や音の重ね方についてさまざまな禁則が定められている対位法自体が、一種のアルゴリズムであると言える。この技法を体のように使いこなし、質の高い楽曲を書くためには、長い鍛錬が必要とされる。しかしそれはある程度プログラムとして実装可能なのだ。20世紀以降の現代音楽、例えばアルノルト・シェーンベルクが形式化した十二音技法などは、対位法以上に手法が厳密に定義されており、アルゴリズム的な側面を持っている。

一方で、ポップミュージックの発展と共に、クラシックとは違う独自の発展を遂げた実用的な和声理論(コード理論)は、対位法ほど厳格な規則はなく、むしろ経験則の蓄積という側面が強い。そのため、単なるアルゴリズムでは対応しきれない。ここで、既存のデータを学習することで新しいパターンを生成する機械学習、特に深層学習を使ったAIの出番となる。SONYのFlow Machinesは、クラシックの譜面データだけではなく、ジャズスタンダードやポップミュージックのリードシート(コード進行と歌メロだけが記してある簡易的な譜面)のデータベースを活用して、学習の効率と質を向上させる工夫をしている。

J-POPの“定番”は抽出できる

改めて、話をポップミュージックに絞ろう。ポップミュージックは時代ごとに姿を大きく変化させると同時に、かなりステレオタイプに縛られてもいる。例えばJ-POPにおいて、Aメロ、Bメロ、サビ……という“定番”の構成を外れるものは少ない。また、メロディを支えるコード進行も“定番”化が進んでいて、同じコード進行でできているヒット曲は山のようにある。

お笑い芸人のマキタスポーツは、有名アーティストがいかにも作りそうな楽曲を作り、解説込みで実演してみせるネタでも広く知られている。そんな彼が著書「すべてのJ-POPはパクリである~現代ポップス論考」で披露しているJ-POP分析は、いかにポップスが“定番”の組み合わせによって成り立っているかを浮き彫りにする興味深い内容になっている。コードのルート音が1音ずつ下がっていく、いわゆる“カノン進行”の解説から、J-POPの歌詞で使われがちな単語や楽曲構成、そしてAメロやBメロといったパートが楽曲の中で果たす役割に至るまで、丁寧に噛み砕いて解説しつつ、実在しないヒット曲を作り出す。

マキタスポーツがギターの弾き語りでポップスをコピーしていく中で見つけ出していったこうした“定番”を、深層学習を利用したAIが学習することはたやすいだろう。それはFlow MachinesやAmper Musicといったポップス系のAIがすでに実現していることでもある。またマキタは、コード進行に表れる“手癖”、歌メロに表れる“メロ癖”、歌唱法に表れる“のど癖”、そして作詞に表れる“歌詞癖”という4つの癖を分析することで、特定のアーティストそっくりの曲を作る手法も解説している。これもまた同様に深層学習以後のAIにはお手のものだ。

ただネックなのは、学習に用いるデータをどのように得るかということだ。著作権の問題もあれば、そもそもスコアが存在しない楽曲については耳コピをするしかない。現在のコンピュータの性能では、数分間にわたる音声データを何千曲という単位でそのままデータセットとして用いることはあまり現実的ではない。幸いにも、カラオケ産業が発達した日本では、業界各社が楽曲のリリースとほぼ同時にカラオケ用のデータを制作する。その蓄積をもしAI作曲家の開発に利用できることがあれば、驚くような成果を上げるかもしれない。それも“たられば”の話に過ぎないが。

録音芸術としてのポップスと分業制

ここまではあえて言及してこなかったが、音楽が最終的に私たちリスナーのもとに届けられるときには、生演奏であれ打ち込みであれ、編曲を施された“商品”へと加工される。そこではリードシートに表されるようなメロディとコード進行だけではなく、ドラム、ベース、ストリングス、シンセサイザーなどさまざまな肉付けが施され、楽曲の味わいを決める。編曲次第で同じ歌詞とメロディの楽曲でもがらりと印象が変わってしまうことは、カバーやリミックスを聴けば簡単に実感できる。音楽ジャンルの区別がはっきりするのは、多くの場合この編曲の段階でのことだ。

ポップミュージックでは編曲家という専門職が存在するため、作曲と編曲は異なるものとされることが多い。しかし、技術の発展がそうした固定概念を変えつつある。中田ヤスタカ(CAPSULE)を筆頭に、自らサウンドメイクからレコーディング、ミックス、マスタリングまでを手がけるプロデューサーは今や珍しくない。彼らにとってはこれらの工程すべてがまさに作曲なのだ。

その一方で、制作現場では作詞・作曲・編曲といった慣習的な区分は次第に過去のものとなりつつある。複数人で共に作曲するコライティングなどの一般化によって、より細かく柔軟な分業やコラボレーションが数多く見られるようになったためだ。それゆえポップスの“作曲”について語る場合、前述のマキタスポーツによるJ-POP論のように、単に1人のアーティストの作風を分析するようなアプローチには限界が出てくる。

以上のように、現代のポップミュージックにおいて“作曲”という言葉が示す範囲はかなり不定形だ。となると、必然的にAI作曲家に求められる役割も多岐にわたることになる。現状のように楽曲の雛形となる素材を提供するとか、あるいは対話型のインターフェースによってユーザーと共同作業をするようなAI作曲家も、分業とコライティングの時代である今ならば、十分に活躍の可能性を秘めている。また、制作のすべての工程をプロ並にこなせるAI作曲家が実現できたとしても、ほかのミュージシャンやAIとのコラボレーションを前提とした設計が求められるはずだ。

次回は“作る側”の視点から離れ、“聴く側”の環境の変化などについて考えながら、AI作曲家の活用について考察していく。

<つづく>

文 / imdkm

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